わんだふる☆わーるど

9/1 第61話 「Lies and Truth」

 遠い日の記憶。  大きな木の木陰で、おれは誰かを待っていた。  毎日がとても楽しくて。  離れるのがとても悲しくて。  最後に交わした、約束の……  「どうしたの〜?急にボーっとしちゃって」  「うぉぁ?!ケイいつの間に!」  気がつくと、すぐ目の前にケイの顔があった。  「まあ、それより早くしないと、ほら」  そう言うケイの視線を追うと、またふらふらと絵里が男の元へと向かっていた。  「だぁ?!ケイ、なんで止めないんだよ!!」  「そりゃあ、あの娘を止めるのはあなたの役目だからよ」  「はぁ?!」  「まあ、愚痴は後で聞いてあげるから今は、ね」  「あ、ああ」  なんだかケイに上手く乗せられたような気もするが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。  「絵里!戻ってこい!」  しかし、おれの叫びは絵里に届いていないらしく、絵里は止まろうとしない。  「くっ、間に合うか?」  おれは全速力で絵里の元へ向かった。  幸い、さっきのような見えない力に押し戻されることもなかったので、結構余裕で絵里に追いついたりした。  「おい、絵里」  「はい。なんでしょう?」  おれが絵里の肩をつかんでこっちを向かせると、絵里はいつものほんわか笑顔をおれに向けた。  ……う〜む、緊張感がなくなるというかなんというか。  おれは気を取りなおして男の方を向いて叫んだ。  「あんた一体何者なんだ!」  すると、男は始めて口を開いた。  「……絵里ば、返してくんしゃい」  ………………は?  「絵里はおいの娘たい!娘ば連れ戻しにきてなんがいかんとね!」  な、なんだこの喋りは?  絵里と同じ北欧系の顔立ちで九州弁なんて……反則じゃねえか?  って、そんなことよりも!  「絵里の……親父??」  「そう。あの人はエルの父親、エクス=ワイアールよ」  いつの間にかおれの側に寄ってきていたケイが答える。  「ちょっと待てよ!あんたから貰ったマニュアルにはこっちの世界に男はこれないって書いてあったぞ、確か」  「あら、よく覚えてたわねそんなこと。私もとっくに忘れちゃってるのに。っていうか、あれ8割フィクションだからあんまり 信用しないほうがいいわよ」  と言い、てへっと笑うケイ。  ……てへっ、じゃねえだろ、てへっじゃ。  「じゃあ何かい。あんたが今まで言ってきたことも全部嘘なのかい」  「全部じゃないわよ。私達の世界では確かにコスプレはファッションとして認知されているし、色のついた水も存在しないわ。 まあ、そのへんの話しは後でゆっくりしてあげるから」  「ああ、じっくりと聞かせてもらうさ」  「こら!お前たち!おいば無視してなんばこそこそ話しよっとか!」  「………ところで、あの人九州男児なのか?」  おれはちらりとエルの父親だという男、エクスに目をやる。  「そんなわけないでしょ」  「まあ、そうだよな」  「多分、口と口でキスしたわけじゃないから、ちょっと言語情報に誤差が出てるのね。でも、ロシア語とかラテン語じゃないか らラッキーだったわ」  ラッキーっておい。その可能性もあったのかよ。  「どうでもいいけど、あいつ、絵里の親父にしちゃ若すぎないか?」  おれは隣りにいる絵里とエクスを見比べる。  どうみても少し上、もしくは同い年にしか見えない。  そんなやつが親父だって言っても、信じられねえよな、普通。  「ケイ!お前も一緒に戻ってこんか!」  へ?  「嫌よ」  なんだ?  「なんば言いよっとか!そがんワガママの通じっとでん思うとっとか!」  なんか、変な方向に話が進んできたぞ?
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9/2 第62話 「B-DASH」

 「とにかく、二人とも帰っぞ!」  「い・や♪」  と、エクスに向けてあっかんべーをするケイ。  っていうか、ケイたちの世界にもあるんだな、あっかんべーって表現。  「ケイ!お前のステイ期間はとっくに過ぎとっやろうが!」  「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」  「なあ、ケイ。ちょっと聞いていいか?」  「ん?何?」  「あの人、ケイの何なんだ?」  「父さんよ」  「ふ〜ん…………ってちょっと待て!ケイ達の世界は確か子供は一人しか生まれないはずじゃなかったのか?!」  「ああ、それも嘘」  実にあっけらかんと言うケイ。  「なんでそんなまぎらわしいことするんだよ……」  「こら、そこ!また二人だけの世界ば作ってからに!はっ、まさかお前がおいの娘たちばたぶらかしたかとか!!」  いや、人聞きの悪いこと言わないでくれよ親父さん。  「そんなことやってませ…」  「そうよ〜。私達聡くんとラブラブなんだから♪ね〜エル」  「はい♪」  そう言って俺の両側から腕を組んでくるケイ&絵里。  ……おいおい。  絵里もいつの間にそんなにノリがよくなったんだよ。  「ゆ、ゆ、ゆ、許すぅわんぞ〜〜!!!!!!!!」  案の定というかなんというか怒りがマックスに到達した様子のエクス。  「しゃあない。こういう場合は……逃げる!」  おれは二人を振りほどいて猛ダッシュで駆け出した。  「あ、こら待たんか〜〜!!!」  「今は待ちません!!」  まあ別に逃げるようなことしたわけじゃないが、今あの人に何を言っても聞いてくれないだろうからな。  「待て〜〜待てって言いよっやろう、っごが?!」  ん、なんか後ろで変な音が聞こえたぞ?  ちょっとだけ振り返って見ると、ケイと絵里がエクスにクロスラリアットを食らわせたようだった。  ……今は気にせずに逃げるとしよう。  はぁ、この先いったいどうなっちまうんだ?
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9/3 第63話 「Back Home」

 「ったく、なんだったんだ今のは?」  おれはある程度走って、エクスが追って来ていないことを確かめると足を緩めた。  いや、ちらっと見た感じでは地面にのびてたみたいだったが。  ……まあ、死んではいないだろう。多分。  それにしても、考えることが多すぎる。  多すぎて何から考えていいかわかりゃしない。  こういう時は……うん、考えないに限るな。  ちょっと疲れたし。  まあ、まずは家に帰って風呂にでも入るとしよう。  「ただいま〜」  誰も居ないであろう家に帰宅を告げるおれ。  「あ、お帰りなさ〜い」  ……居たよ。絵里が。  「ご飯なら出来てるわよ〜」  ケイ、あんたもか。  ってことはもしかして……  「あ、父さんなら送り返したから」  一体何処に?  まあ、自分らの世界だろうけど。  それはともかく。  「なあ、お前ら。どうしておれより早く家に居るんだ?」  そう。おれは実は少し迂回したものの、近道を通って家へと走っていたのだ。  しかし、途中絵里たちとはすれ違わなかった。  まあ、おれがエクスの目をくらますために多少ロスしたとはいえ、それほど遠回りしたわけではない。  それに、決しておれの足は遅くない。むしろ速いほうだ。  道夫や梓には敵わないけどな。  そんなおれより先に家についたとなると……  「お前ら、さては飛んだな?」  「正解♪」  「いいのかよ。誰かに見られても」  「別に構わないわよ。秘密にしてるわけじゃないし」  いや、そっちは構わなくともおれが困るんだが。  特に、この家に入る決定的瞬間など見られた日にゃあもう。  「あら?意外と心配性なのね」  「ああ、これ以上悩みの種は増やしたくないからな」  「聡さん、悩んでたんですか?」  ……はぁ。  「まあいい。詳しい話しは飯食いながらゆっくりと聞くからな、ケイ」  「オッケー」  何故か明るくリビングに向かうケイであった。
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9/4 第64話 「Question Time T」

 「いただきま〜す」  席につくや否や、早速食事にとりかかるおれたち。  ちなみに、今日の晩飯はチャーハンだ。  確かに手軽に作れるメニューではあるが、一体どれだけの速さで作ったんだ?  まあ、気にしたところで腹はふくれないから食べるが。  「さて、ケイに最初の質問だ」  おれはさっきから気になっていたことを一つ一つケイに尋ねることにした。  「ええ、いいわよ」  「あんたたちの親父、確かエクスだったよな。あの人いったい何歳なんだ?」  とりあえず、さっき発覚した色んな嘘よりも、エクスの年齢が気になってしょうがなかった。  見た感じ絶対おれたちとそんなに変わんなかったし。  下手すりゃ年下でもおかしくないような若々しさだったからな。  「そうね〜、今年で確か50だったかしら?」  「50?!マジでか?」  「うん、大マジ。まあ、驚くのも無理ないわよね」  「……あんたたち、実は地球人じゃねえな……」  おれは何故か怒りの力で頭髪が金色に輝いてスーパーモードに突入する宇宙人を想像した。  あいつらは戦闘民族だから成年期が長く続くはずだったな、確か。  あ、でもその宇宙人は黒髪だけだったはずだよな。  てことは……混血か?!  ……もっとも、これはマンガの中の話だが。  「まあ、正確にはそうよ。別の世界から来たって言ったでしょ?そこは地球じゃないんだし」  ……そういやそうだった。  ケイたちの存在自体がマンガみたいなものだったよ。  「じゃあ、あんたらサイ……」  「それは違うわ」  おれが全てを言いきる前にケイに阻止されてしまった。  どうやら、おれが考えていることがわかったらしい。  う〜ん、ほっとしたような残念なような。  「じゃあ、なんでケイの親父さんはあんなに若作りしてんだよ」  「別に若作りしてるわけじゃないわよ。まあ、平たく言うと、こっちの世界の成長過程と私達の成長過程に違いがあるのよ」  「はい?」  はっきり言ってよくわからん。  「ん〜、じゃあもう少しわかりやすく言うわよ。私達の世界ではね、人間は『幼年期』『成年期』『盛衰期』の3段階にはっ きりとわかれて成長するの」  「???」  「???」  おれの隣りで話を聞いていた絵里も何故か不思議そうな顔をしてケイの話を聞いている。  「……絵里、あんたもう思い出してもいい頃でしょうが」  「はぁ」  まあ、確かに絵里は少しづつではあるが記憶を取り戻しつつある。が、まだ完全には戻っていないようだ。  「ま、それはこの際置いとくとしましょう」  ケイの切り替えの早さもさすがだ。  「で、こっちの世界だと人間は赤ん坊から徐々に大きくなっていくのよね?」  「ああ、普通そうだぞ」  「でも、私達の世界では『幼年期』から『成年期』へ成長を遂げるのは劇的な変化を伴うのよ。そうね、こっちの世界でいう 6歳児がいきなり20歳前後の身体になってるようなものかしら」  「な?!あんらた本当に人間か?」  「さあ、それはわからないわ。でも、おかしいわね。この辺りの説明はマニュアルにきちんと書いてたはずだけど。おもしろ おかしく」  「いや、そんなことは書いてなかったぞ」  「あ、聡さん。結構読めないページがあったじゃないですか。多分そこに書いてあったんですよ」  「ああ、そうかもな」  「え?読めないとことかあったの?」  「おう、多分ケイたちの世界の言葉だと思ったんだが、違うか?」  「……変ねえ。ちゃんと全部こっちの言葉で書いたはずだったんだけど。さては文字化けしたな」  「文字化け?!………ってなんだ」  がくっ、と崩れるケイ。  「あんたねえ、パソコンとかいじったことないの?」  「ない」  おれは断言した。  それ関係は由美が詳しいけどな。  おれにはさっぱりだ。  「……知らないんじゃしょうがないわね。まあ、要するに本来書こうとした文字が変化して別の文字になっちゃうことよ」  「ふ〜ん。で、どうしてそんな風になるんだ?」  「原因なんて私にもわからないわよ」  「あ、わかりました!」  突然、手をぽんと打って絵里が発言する。  「ん、絵里にはわかったのか?」  「はい。つまり、ケイさんの負けってことですね?」  ………意味がわからんぞ、絵里。
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9/5 第65話 「Question Time U」

 「まあ、それはともかく何らかの理由でいくらかの個所が読めなかったのね?」  ケイはどうやら、絵里の言葉を気にしないようにしたようだ。  「くすん」  ちょっと絵里がイジケてるが、この際ほっといたほうが話が早く進みそうだ。  「ああ。いくらかというか6〜7割は読めなかったけどな」  「え、そんなに?折角苦労して書いたのに……」  「の割には嘘だらけじゃねえかよ」  「まあ、それはご愛嬌ってことで」  てへっ、と笑って誤魔化そうとするケイ。  「ご愛嬌って、そんな問題じゃねえだろ。一体なんでこんなことしたんだよ」  これも気になってたことの一つだ。  なんでケイはマニュアルに嘘を詰めこんだんだ?  何か目的があったのだろうか。  「そりゃ、マニュアルをおもしろおかしくするためよ」  「はい?!」  なんだそりゃ??  「だって、最初普通に普通のこと書いてたら、なんだか固苦しくてつまんなかったんだもの」  「いや、つまんなくても普通のやつの方が嬉しかったぞ、おれとしては」  「ふ〜ん、だったら読んでみる?」  「あるのかよ!」  「ま、今は持ってないけど。気が向いたら持ってきてあげるわ」  しかし、ケイの言葉はいかにも気が向かなそうだったので、まず持ってこないだろうな。  「さて、話を元に戻すわよ。聡くんが気になってるのは父さんの容姿が何で私たちくらいの若さなのか?ってことだったわ よね」  「ああ、そういやその話の途中だったな」  すっかり忘れてたが。  「私たちの成長が3段階に分かれていることと、幼年期から成年期へは飛躍的な変化を遂げることはさっき説明したわよね」  「ああ。で、ケイたちの親父もまだその『成年期』ってやつなのか?」  「結論を先に言うと、ずばりそうよ。ちなみに、私とエルも成年期なの」  ここで、ふとおれにある疑問が浮かんだ。  「なあ、ケイと絵里って実際に歳いくつなんだ?」
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9/6 第66話 「Question Time V」

 「……意外といい度胸してるわね、聡くん?」  ケイの笑顔がちょっと恐い。  「教えてくれたっていいだろ。別に減るもんじゃないし」  「まあ、そうだけど。それでも女の子の年を不躾に聞いちゃダメよ」  「そんなに知られたくないってことは、もしかして……」  刹那、ケイの回りを絶対零度の障壁が覆う。  「あ〜ら聡くん、何が言いたいのかな〜〜?」  「いえ、なんでもないです。ハイ」  どうやら触れてはいけない領域らしい。  「じゃ、話を元に戻すわね。父さんを見たらわかると思うけど私たちは成年期の時期が一番長いのよ」  「ああ」  「個人差はあるけど、幼年期は大体4〜5年で終わってそこから成年期が始まるわ。成年期は、そうねえ、平均で60年って とこかしらね」  「60年?!」  「詳しい統計とかとられてるわけじゃないから正確にはわからないけど。見た感じそんなとこね」  「見た感じってあ〜た、見た目じゃ年とかわかんないだろうが」  実際ケイたちの親父はどう見ても50には見えなかったぞ。  「まあ、こっちの人から見ればそうでしょうけど。私たちにはわかるのよ」  「そういうもんか?」  「そういうもんよ」  「じゃあ、絵里。ケイの年ってわかるか?」  試しに絵里に問い掛けてみる。  「はい、23歳です」  何故か即答する絵里。  「な!?エル、あんたなんで答えるのよ!!」  ケイの慌てぶりから見て、どうやら真実のようだ。  「なんだ、別に普通じゃねえか」  なんであんなに必死に隠そうとしたんだ?  「はぁ、バレちゃったらしょうがないわね。そうよ、どうせ私は23ですよ〜だ」  いや、別にそう落ちこまなくても。  「ついでに言うと、エルは聡くんと同じ17歳よ」  まあ、絵里に関してはそんな感じしてたけどな。履歴書みたいなやつにも書いてあったし。  ……ってか、あれはあきらかに嘘っぽかったが。  しかも修正可能だったし。  「あ、そういやあの履歴書みたいなやつに書いてあったんだが、絵里の誕生日っておれと一緒なのか?」  「そう、7月7日よ。ちなみに私の誕生日も同じだからよろしくね☆」  いや、よろしくと言われましても。  「3人とも一緒なのか……なんか、出来すぎな感じがするな」  「ま、単なる偶然だから気にしなくていいわよ」  「あの、誕生日が一緒だと何かあるんですか?」  「いや、別に何もないぞ」  よく考えてみれば、これといって何があるというわけじゃない。  ただ珍しいくらいだな。うん。  「ところで、『幼年期』と『成年期』についてはなんとなくわかったんだが、最後の『盛衰期』ってえのは一体なんなんだ?」
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9/7 第67話 「Question Time W」

 そう、それがちょっと気になってた。  普通『幼年期』『成年期』とくれば次は『老年期』とかじゃないのか?  「う〜ん、そうねえ。盛衰期はちょっと特別だから」  「特別?」  「そう。盛衰期といっても、外見は成年期の頃とそう変わらないの。私たちが成長というか変化するのは、幼年期から成年期 にかけてだけだから」  「見た目が変わらない……あんたらもしかして不老不死か?」  「そうね、不老かもしれないけど不死ではないわよ。ただ、こっちの人より少し寿命が長いだけ」  「そっちの平均寿命って何歳くらいなんだ?」  「だいたい120歳くらいかしら?」  おいおい、100歳過ぎても外見は二十歳くらいなのかよ。  なんか恐いぞ。  「で、『成年期』と『盛衰期』の違いって何なんだ」  「ずばり、翼ね」  「翼?」  「これですか?」  と言って、絵里が自分の翼を出現させ、ぱたぱたとはためかせる。  その仕草は、何故か犬が尻尾を振る様子を思い出させた。  「エル、別に出さなくてもいいわよ」  「はぁ」  ちょっとしゅんとなる絵里。  でも翼をしまう気はないらしい。  「その『盛衰期』になると、翼がどうかなるのか?いや、その前にケイたちの世界……は何て呼べばいいんだ?」  そういえば基本的なことを聞くのを忘れていた。  「そうねえ。いつまでも“あっち”や“こっち”じゃわかりにくいもんね。特には決まってないんだけど……アルファゾーン でどうかしら?」  いや、おれに聞かれても。  「なんならアガルタとかガンダーラとかエルドラドでもいいわよ?」  「……アルファゾーンでお願いします」  「私は、ガンダーラがいいと思いますけど?」  「却下」  おれは即座に絵里の意見を退けた。  っていうか、本当に何でもいいのか?  「で、そのアルファゾーンの住人には皆翼があるのか?」  「ええ、デフォルトでもれなく付いてるわ」  「つまり、標準装備ってことだな?」  「そうよ。ま、幼年期にはまだないけどね」  「じゃあ、『成年期』になるといきなり生えてくるのか?」  「結果的に言えばそうね。翼が生えることが成年期の証だし。ま、生えるって言うとちょっと語弊があるんだけどね」  「生えてるんじゃないのか?」  「正確には違うわよ。生えてるんなら出し入れ自由ってなわけにはいかないでしょ?」  あ、それもそうか。  「私にも詳しいことはわからないんだけどね。で、話を元に戻すけど、盛衰期になるとね、翼が消えるのよ」  「消える?」  「そう。もう翼が見えなくなるの。まあ、アルファゾーンではあまり翼をしまってる人はいないから、翼のない人が盛衰期って ことが暗黙の了解になってるのよ」  「ふ〜ん」  「そして、盛衰期になった人は能力が衰えるの」  「能力?ああ、空飛んだりする力のことか」  「そうよ、他にもまだ色々あるんだけどね」  「でも、なんかおかしくねえか?衰えるだけなら『衰亡期』とかのほうが当てはまる気がするぞ」  「いい所に気がついたわね。そう、盛衰期になるとただ能力が衰えるだけじゃないのよ。ある特定の能力だけがとび抜けた効力 を持つようになるの」  「へ〜、能力が1箇所に集中するのか。なんだかスペシャリストみたいで格好いいな」  「ただ、あんまりいい事ばかりじゃないのよね。その能力を持て余してまともに生きられない人たちが出てくるのよ。その数お よそ5割」  「5割?!半分かよ……そういった人たちはどうなっちまうんだ?」  「……聞かないほうがいいわ」  ケイの悲しげな表情を見て、おれは察した。  助からないのだな、と。  「そういうこともあって、普通に生活してる盛衰期の人たちは皆から尊敬され、また恐れられているわ」  「……色々と、大変なんだな」  「そう、かもね」  呟くケイの顔が、何故か儚げに見えた。  そして、しばらくの沈黙の後。  「私、お茶いれてきますね」  と言って絵里が立ちあがった。  ちなみに、翼はまだ出したままで、相変わらずぱたぱたと揺れている。  あと、チャーハンはとっくに食べ終わっていたりする。  「エル、気をつかったのかしら」  「さあ、どうだろう。あいつの行動は今一つ把握できないからな」  「それもそうね」  くすっと笑うケイ。  その顔を見ておれの頭を再び疑問がよぎった。  「なあ、ケイと絵里って本当に姉妹なのか?」
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10/30 第68話 「Question Time X」

 「なに?聡くん疑ってるわけ?」  「だってよ、あんたの話ほとんど嘘だったじゃねーか」  おれはジト目でケイをにらむ。  「あら、ほとんどなんて人聞き悪いわね。せいぜい半分くらいよ」  それでもやっぱり半分くらい嘘なんだな。  ってか、それを自分で認めてどうするよ?  「……あんた、そのうち友達なくすぞ」  「大丈夫よ。そのくらいの嘘で騙される友達なんて周りにいないから。ま、強いて言えばエルが騙されるくらいね」  「まあ、絵里ならしなくていい勘違いまでしそうだけどな。って、それよりも!あんた、ほんとに絵里の姉貴なのか?」  「当然」  自信満々に答えるケイ。  「それにしちゃあ、全然似てないよな。髪の色とかも正反対みたいなもんだし」  絵里の髪は落ちついた白に近い銀。  対するケイの髪は派手に輝くブロンド。  よく見ると目の色や肌の感じも結構違ってたりする。  「う〜む、見れば見るほど似てない」  「悪かったわね。でも、まあ、確かに私たちは特殊ではあるかも」  「特殊?」  「そう。私は母親の遺伝子だけを、逆にエルは父親の遺伝子だけを受け継いでいるの」  「は?!」  一瞬おれはわけがわからなくなった。  しかし、なんとなくそれが大変なことなんじゃないかと思えたので、  「身体とか、大丈夫なのか?」  と、的外れっぽい質問をしたりした。  「まあ、そうはいっても普通の人と変わりはないから安心していいわよ。難しいこと言っても聡くんにはわからないでしょう から」  はい。全くその通りでございます。  「そうか。そういや絵里ってエクスって人に似てたな。確かに」  っていうか、瓜二つの一つ手前くらいに似てたぞ。  「私と母さんもエルと父さんくらい似てるわよ?」  「ふ〜ん……って、もしかして。ケイの母さんってケイと双子の姉妹だって誰かに話してたりしないか?」  「あら、よくわかったわね。初対面の人には必ず“姉のケイです”って紹介されるわ」  なんと!  ケイのほうを年上に見たてていたとは。  あんたにゃやられたよ。  「じゃあ、絵里はどんな風に紹介されるんだ?」  「絵里はね〜。色々よ」  「色々?」  「色々ですか?」  ひょっこりと話に加わってくる絵里。  「ええ、親戚の子だったり友達だったり赤の他人だったり街でスカウトした小粋なギャルだったり隠し子だったり……」  今、なんかさらっと凄いこと言わなかったか?  「聡さん、隠し子って何ですか?」  って絵里しっかり聞いてるし!  「さあ、隠れんぼしてた子供じゃないかな」  ある意味嘘はついてないぞ〜。  「そうですか」  あまり納得はしてないみたいだが、まあ、この場はうまくごまかせたようだ。  「あ、ところでケイ。あんたなんでまたこっちに来たんだ?」
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11/28 第69話 「Question Time Y」

 「もちろん、エルの報告を聞くためよ」  「報告?」  ってなんだ?  「聡くん、しっかりしてよね。昨日もそのために私がこの家に来たでしょ?」  「ああ、そういえば……」  おれは昨日の出来事を思い起こす。  そういや、昨日は家に帰ったらケイが待ってて少しびっくりしたんだ。  そして、ケイと絵里がキスしてさらにびっくりした日でもある。  「で、もう済んだのか?」  「そりゃあ、もちろん。何?もしかして聡くんまた見たかったのかな〜?」  悪戯な笑みを浮かべて言い寄るケイ。  「んなこた〜ない」  動揺のあまり日本語がおかしくなるおれ。  「聡くんのえっち♪」  「不潔です!」  ……絵里、キャラが違うぞ。  「で、今回の絵里の評価はどうだったんだ?」  気を取りなおしておれはケイに聞いた。  「Bよ」  おお、前回よりワンランクアップしている。  「今回はなかなか出番も多かったしね。相変わらず台詞は少ないけど」  っていうか、なんでそんな客観的な評価が出来るんだ?  「というわけで、これからも頑張るのよ」  「はい、頑張ります!」  よしっ、と小さく気合を入れる絵里。  「それじゃ、私はそろそろ戻るわね。父さんのことも心配だし」  ……あまり心配そうには見えないが。  「はい。ではお気をつけて〜」  「エルもあんまり聡くん困らせちゃだめよ。聡くんはエルを助けてやってね」  「はい」  「ああ、わかってる」  「じゃあ、また明日〜」  そう言ってケイは律儀に玄関から外へと出ていった。  やっぱり明日も来るつもりのようだ。  ってか、それがケイの仕事みたいなもんだしな。  「さて、片付けるか」  「はい♪」  そしておれと絵里は二人で晩飯の後片付けを追えると、テレビを見たりしながらまったりと過ごした。  なんだか、久々にのんびりしてるような気がするのはおれの気のせいだろうか?  「んじゃ、先に風呂入るから」  「わかりました」  さすがに熱湯風呂に入ることは出来ないので、風呂にはおれが先に入ることにする。  湯船につかり目を閉じる。  ……う〜ん、何かケイに聞き忘れてる気がするんだよな〜。  そう、何かとてつもなく大事な何かを。  でも、もうケイ帰っちゃったしな。  まあ明日になれば思い出す……  ん?  帰った?  いや、ケイは自分の世界に“戻る”って言ってた。  そして、絵里。  絵里は、どうなんだ?  ケイみたいにこっちと向こうを行き来することは可能なんだろうか?  けど、おれの頭にはあの嘘だらけのマニュアルの言葉が浮かんできた。  そこには確かこう書かれていたはずだ。  『……なお、その世界に強い愛着を抱いた者は、その世界への永住を許可する』  『しかし、その場合、この世界での記憶や、それまでその世界で過ごした記憶を全て忘れ、全くの別人として暮らしていかなけ ればならない』
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12/27 第70話 「No Answer」

 ということは、なんだ。  ここで、今のままの状態で、絵里とずっと一緒にいることは出来ないのか?  出来れば、あれも嘘だったとケイに笑い飛ばしてもらいたい。  しかし、こんな重要なことまで嘘で固めることを、ケイがするとも思えない。  「……っぷは!」  ぐしゃぐしゃと顔を洗う。  いつまで考えても答えなんか出そうにない。  そもそも、俺は、絵里にここに残って欲しいのか?  それに、絵里はここに残りたいのだろうか。  なにもかもが、あやふやだ。  唯一の救いはタイムリミットがはっきりしていること。  ケイは絵里の滞在期間は一週間だと言った。  絵里が空から降ってきたのがこの前の日曜。  そして今日は火曜日。  土曜まで、あと3日と取るか、まだ3日もあると取るか。  何にせよ、それまでにはっきりとした答えを見つけないとな。  そして、今まであまり気にしてなかった絵里の記憶喪失。  絵里の世界、アルファゾーンの事を思い出せないまま選択の日を迎えるのはフェアじゃないと思う。  今のままならば、絵里は確実にこちらの世界を選ぶ気がする。  が、選んだ後でアルファゾーンの事を思い出してしまったら。  絵里は、後悔はしないかもしれないけど、悲しむに違いない。  そんなのは、おれは嫌だ。  絵里には、ちゃんと二つの世界を比べて、そして選んでもらいたい。  よし、明日からは絵里の記憶を戻すことに全力を注ぐとしよう。  まずはそれからだ。  「よし」  俺は軽く気合を入れると、湯船からあがった。  ちょっとのぼせ気味なのは秘密だ。  「絵里〜あがったぞ〜」  「はい、わかりました」  「………で、それは何の真似なんだ」  リビングを覗くと、絵里が奇妙なポーズで座っていた。  「はあ、ヨガだそうです」  「ほほう」  よく見ると、テレビの中に絵里と同じ格好で座っている団体が映っていた。  っていうか身体柔らかすぎるぞ、絵里。  「あ、おれ今日ちょっと疲れてるからもう寝るわ」  「そうですか、ではお休みなさいませ聡さん」  「ああ、お休み」  てくてくと自室に向かうおれ。  とてとてと着いて来る足音。  足音?  「あの〜絵里さん?」  立ち止まり、振りかえらずにそう呼びかけてみる。  「はい」  やっぱり着いて来てましたか。  「お風呂は?」  「すませちゃいました」  「嘘つけ!」  とりあえず裏拳つきでつっこんでみる。  まあ、当てるつもりはなかったんだが……こうまで微動だにしないとは。  「聡さんと一緒に眠りたかったんです。ご迷惑でしたか?」  ぬお?そんな表情でせまってくるとは……  腕を挙げたな、絵里。  「じゃなくて!とりあえず風呂にくらい入ってくれ。絵里が上がるまで待っててやるから」  「はい」  おやおや、笑顔ですっ飛んで行きましたよ、あの娘は。  ったく、妙な所は子供なんだよな。  ま、別におれが大人ってわけじゃないけど。  「あがりました〜〜」  「早っ!っていうかなんだよ、その格好?!まだバスタオルじゃねえか!服着ろ!服!!」  「はい!」  しかし、身体は大人だ……  「ってどこのエロオヤジだよ、おれは!」  「聡さん、エロオヤジだったんですか?」  「違うわ!」  はぁ、なんちゅうかやっぱ疲れる。肉体的に。  精神的にはなんとなく癒されてる気がするが。気のせいだろう。  「まあ、とりあえず寝るぞ」  「はい」  さくさくとおれの部屋へと向かう二人。  そして、ぽてっとベッドに倒れ伏すおれ。  アンド絵里。  「なあ、絵里」  「はい?」  「お前、布団は?」  くいくい、とおれのベッドを指差す絵里。  「そうか。じゃあお休み」  おれはそう言って部屋を去ろうとした。  「あ、聡さ〜ん。置いていかないでください〜」  「だったら自分の布団を持ってこい」  「でも、聡さん一緒に寝てくれるって……」  「あのなあ。おれの部屋で寝ることは許可したが、誰も一緒に寝るとは言ってないぞ?」  「わかりました……」  しょぼしょぼと自分の布団を取りに行く絵里。  しっかし、なんであんなに一緒に寝たがるのかね。  まあ、男としては嬉しい状況ではあるのだが、今も感じる冷たい視線が身の危険を告げている。  それに、一緒の部屋で寝てるということが梓や由美に知られたら日にゃ、そりゃもう想像もできない出来事が目白押しだろう。  ああ、いかん。ほんとになんだか頭が痛くなってきた。  こんな時は素早く寝るに限る。  じゃあ、おやすみ。
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