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わんだふる☆わーるど

1/24 第51話 「THE GAMBLER」

 「うむ、なかなかのホクホク具合だな」  おれはじゃがいもを頬張りながらそんなことを口にする。  「……いつも思うけど、サトシの料理に対する感想って奇抜よね」  「そうか?道夫の味覚に比べりゃ可愛いもんだと思うけどな」  「そりゃそうだけどね」  「なんだ、おい。ひどい言われようだな」  「しょうがないでしょ、事実なんだし」  「というわけで、絵里。道夫の料理だけは食うんじゃないぞ」  「はい。わかりました」  「そうかな。そんなに変かな」  「変だ!」「変!」「変よ!」  「だ、そうです」  「クスン」  と、こんな感じでおれたちは夕食をつついた。  「ごちそうさまでした〜」  五人で同時に食後の挨拶をすます。  「さて、さっさと片付けましょうか」  そう言って梓が自分の分の食器をもって台所へと向かう。  それに続いておれたちもわらわらと後片付けへと台所へと向かった。  途中何枚か皿が中に浮いたり蛇口が勝手に回ったり絵里がコケたりしていたが、何の問題もなく片付けは終了した。  「さてと、飯も食ったしそろそろ寝るか」  「まだ早い!」  速攻で梓に突っ込まれてしまった。  「まあ、せっかくこうやって集まってるんだからなんかやろうぜ?」  道夫がそう提案する。  と、  「大富豪!」  絵里が目を輝かせてそう提案してきた。  「お前、まだ諦めてなかったのか?」  「大富豪!」  「……よっぽどやりたいみたいね」  「まあ、断る理由も無いしな。んじゃ、大富豪やるけど文句のある人」  おれはあたりを見回すが誰も異議をとなえない。  まあ、反対したところで絵里が哀願するか怒り出すかしてどうせやるはめになるんだろうけどな。  「んじゃ、おれはトランプ取ってくるわ」  そうしておれは、すこぶる評判の悪いトランプを取ってきた。  「さて、んじゃ配るけど……絵里、本当に大富豪のルールって知ってるのか?」  「はい。帝国華撃団に入団するには必須ですから」  いやそんなことはないと思うんだが……  っていうか、絵里ってなんでそんなこと……そうか、絵里たちの世界ではゲームとかアニメが 流行ってるって言ってたな。  その影響だろうが、そうすると絵里はだんだん記憶を取り戻してきたってことかな。  「まあ、いいや。んじゃ分けるとしますか」  おれは一枚ずつカードを配っていった。  もちろんイカサマはなしだ。っていうか、そんな技術持っちゃいねえし。  「じゃあ、何を賭けようか?」  瞳を輝かせながら由美が聞いてくる。  そういやこいつはおとなしい顔して無類のギャンブル好きときたもんだ。  しかも、何かを賭けた時の由美は滅法強い。  そんな奴が誘ってくる賭けに乗るやつが、  「じゃあ、明日の昼飯でどうだ?」  ……いたよ、ここに。  「オッケー。梓ちゃんと聡くんと絵里ちゃんもそれでいいわね?」  いつのまにかおれらも頭数に入ってるし。  ま、いつものことだけどな。  「わかったよ」  「いいわよ」  「え?あ、はい」  こうして、明日の昼飯を賭けた大富豪バトルが始まった。  そして、結果は……  「悪いわね〜」  「いやー、まさかお前がこんなに弱いとはな」  「まあ、これも運命と諦めなさい」  「あの、大丈夫ですか?」  「うぐぅ」  そう、おれが最下位昼飯おごり決定であった。  一位は当然由美、二位はかなり意外だったが絵里、三位に道夫、四位に梓と続く。  「これは明日はみんなで学食ね。なんたって聡くんのおごりなんだから」  「……お手柔らかに」  「お、もうこんな時間か」  道夫が時計を見てそんなことを言う。  つられておれも時計を見ると、確かにその時計はもう9時を回っていた。  「あ、本当だ。じゃあそろそろ帰ろうか」  「うん、そうだね」  「じゃあな、達者で暮らせよ」  「おう、暇な時はまた来てくれよな」  「みなさん、お気をつけて」  そんな他愛無い挨拶を交わしながら、おれたちは梓たちを見送った。
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3/2 第52話 「healing bath」

 「さて、これから何しようか?」  「聡さんにお任せします」  う〜む、とは言われてもなあ。  「しゃ〜ない。風呂にでも入るか」  「はい。ではご一緒に……」  「ダメ!」  「くすん…」  というわけでおれは風呂に入る事にした。  昨日のこともあるから、今日はおれから先に入ったほうがいいだろう。  「絵里、今日はおれが先に入るけどいいか?」  「ええ、構いませんよ」  というわけで、今回はのんびり湯船に浸れそうだ。  「ふぃ〜。やっぱ風呂はいいね〜」  おれはまったりと湯船に浸りながら心身の疲れを癒していた。  風呂で癒されるのは日本人の特権か?  なんてことを考えていたのも束の間、おれの思考はいつのまにか八百屋で聞いた男のことにすり変わっていた。  あの八百屋の親父が言ってたのは絵里の世界の関係者だとみて間違いないだろう。  それも、髪の色が同じってことは絵里と血の繋がりがある可能性大だ。  しかも、絵里の世界じゃ一組の夫婦からは一人の子供しかできないってケイが前に言ってたから……  絵里の親父か爺さんか?  けど、あのマニュアルにはこっちの世界には女しか来れないって書いてあったし。  あ〜、やっぱわかんね。  こんな時は早めに寝るに限る。  というわけで今日は寝る!  と、決意しておれは風呂からあがった。  「お〜い、絵里。風呂あいたぞ〜」  「はい、わかりました」  リビングを覗いたら、絵里は……浮いていた。  むう、何かの訓練なのだろうか。  「……人前ではむやみに浮いたり物を浮かせちゃ駄目だぞ」  「え?駄目なんですか?」  「ああ、駄目だ」  「わかりました」  と言うと、笑顔を残して絵里は風呂場へとむかっていった。  「さて、と」  なんだか妙に疲れたおれは、さっきの決意通りに眠るために自分の部屋に向かった。  まあ、疲れの理由は夕方のマラソンだということは明らかなんだが……  そして、ちょっと絵里には悪いかなと思いつつもおれはベッドにもぐり、ものの5秒で深い眠りに ついた。
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4/3 第53話 「in the dream」

 「……くん」  ん?何だ?  「さとしく〜ん」  遠くから、誰かがおれを呼ぶ声が聞こえる。  ここは、何処だ?  見慣れない景色、それに、視線の高さが違う。  これは夢なのか?……いや。  ここは、そう、おれのじいさんの家の近くだ。  「早く早く〜」  姿は見えないが、相変わらず遠くから声が聞こえる。  どうやら、おれを呼んでいるのは女の子らしい。  しかも、何か聞き覚えがあるような……  やはりここは、おれの記憶らしい。  過去の記憶の追体験とかいうやつだろうか?  ま、難しいことはようわからんから、とりあえず呼ばれている方へ行ってみるとしよう。  「うん、今行くよ〜」  ぬお?!昔のおれの声ってこんな感じだったのか。  しかし、自分の声聞いて驚いたのは始めてカラオケでマイク使った時以来だな。  とかなんとか考えながらも、おれは声のした方向に歩いていった。  しっかし、あの辺にこんな森とかあったけか?  なんだかどんどん暗くなってるような気がするが……  「あ、さとしくん遅いよ〜」  と、森に流れる小川を挟んだ向こう側に少女の姿が見えた。  しかし……少女の顔が、霞んだように見えない。  なんでだ?!  「ごめんよ〜、……ちゃん」  え?  確かにおれは今目の前の少女の名前を呼んだ。  しかし、おれが喋ったその名前はおれの耳には届いていない。  いや、耳には届いてるが、認識できないだけか?  とにかく、おれはこの少女を知っていて、その名を呼んだにもかかわらず、おれには少女が何者かわからないってことだ。  ……何かが矛盾している。  「もう、さとしくんが見たいっていうから来たんだよ?」  ってか、そんなことを考えている間にも、過去は着々と進んでるらしい。  ちゅうのもなんかおかしな表現だけど。  ちなみに、おれはおれの過去に干渉できないらしく、ただ昔の自分の身体から過去を覗いてるだけだったりする。  まあ、これが本当におれの過去の記憶だった場合だけど。  「うん、でも、本当にここにあるの?」  だから、この声はおれが考えて喋ってるわけじゃない。  「あるある。だから早くこっちに来て」  う〜む、一体この先に何があったんだ?   これがおれが体験した過去の出来事なら、ちらっとくらい思い出してもいいはずなんだが……  「あ、待ってよ〜」  と、先に進む少女をおっておれも走りだしていた。  その瞬間、視界がぐらぐらっと揺れた。  な、なんだ?!
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4/8 第54話 「strange beakfast」

 地震か?!  いや、にしては揺れてるのはおれだけみたいだし。  ぐ、意識が遠のく……  そうか、これは……  「……さん。聡さん」  すぐ近くでおれを呼ぶ声が聞こえる。  「朝ですよ〜、起きてください」  ゆさゆさとおれの身体が揺れる。  さっき感じた揺れはこれか……  ん?さっき?  さっき何かあったんだけ?ちゅうかおれ寝てたし……なんか夢見てたような気もするけど。  ま、覚えてないってことは大したことじゃなかったんだろう。  「もしも〜し、聡さ〜ん」  う〜ん、それにしても絵里の声が妙に近い気がするが……  「って、ぬぉぁ?!」  「きゃっ!」  薄っすらと目を開けたおれは奇声を発してしまった。  その声に驚いた絵里もびっくりしたらしく、おれを揺らす手を止めた。  「あ、聡さん、おはようございます」  「ああ、おはよう……じゃなくって!あの〜、絵里さん?どうしておれの上に乗っかってるのかな?」  そう、絵里は仰向けに寝ているおれの上に乗るような形でおれを揺らしていたのだ。  平たくいうとマウントポジションってことになる。  「えと、いけなかったでしょうか?」  「まあ、ダメってわけじゃないけど……」  あんまり行儀がいいとは言えないな。  ま、そんなことより。  おれが驚いた一番の理由は、目を開いた時、目の前に絵里の顔がかなり接近していたことだったんだが。  キスしそうな勢いで。  ……ちょっと、もったいなかったかな?  「って、何を考えてるんだおれは!」  「きゃっ!」  いかん、つい一人ツッコミをいれてしまった。  「あ、ゴメン」  「いえ、お気になさらず」  「……ところで、おれの上から降りる気はないのかな?」  「あ!すみません。それは気づきませんでした」  といってひらりとおれのベッドから飛び降りた。  「じゃあ、朝食の準備をしてきますね」  「おう」  そう言って台所へと降りていく絵里。  あ、そうだ。今は一体何時なんだ?  う〜む、7時半か。  ……また絵里が目覚まし止めたのか?  っていうか、絵里はいつからおれの部屋に居たんだ?  確かにこの部屋で寝ていいって言ったけど、その割に絵里が寝てた布団とか見当たらないぞ。  まあ、絵里はおれより早く起きたみたいだから片付けただけなのかもしれないが。  そんな疑問を感じつつも、おれは手早く着替えて絵里の待つリビングへと向かった。  「……なあ、絵里。一つ確認していいか?」  「はい、なんでしょう」  「これは本当に朝飯なのか?!」  おれは目の前に並べられた品々を立ったまま凝視していた。  そこに並べられていたメニューを解説しよう。  まず一品目。フレンチトースト。  これはいい。いかにもといった感じの朝食だ。  次に二品目。チャーハン。  美味そうなのは美味そう、いや実際美味いだろうが、炭水化物をわざわざ二品とる習慣は残念ながらおれにはない。  そして三品目。目玉焼き。  これも一見して朝の定番のようだが、目玉が7つもあってはそうとも言えない。  続いて四品目。七面鳥の丸焼き。  ……一瞬今日はクリスマスか?などと考えてしまったが、そんなことより絵里がどこでこの食材を手に入れたかのほうが 疑問だったりする。  最後に五品目。謎。  そう、そこには今まで目にしたことも耳にしたことも口にしたこともない物体Xが置かれていた。  ……一応、美味そうな匂いはしてるから食えるとは思うが……  「ええ、朝ご飯ですよ」  にっこり笑顔で返す絵里。  他意はないんだろうが、なんだかその笑顔が恐い。  「さあ、聡さん。早く食べましょう」  「あ、ああ」  意を決したおれは、絵里に促されるまま席につく。  「じゃあ、いただきます」  「いただきます」  食前の挨拶を済ませて、おれがチャーハンへと箸を運ぼうとすると……  「あ!」  と急に思い出したように絵里が席から立ちあがった。  「いけない、あれを出すのを忘れていました」  ……まだ何かあるのか?!  
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5/21 第55話 「sweet honey」

 「はい、これです」  そう言って絵里は台所から小さなビンを持ってきた。  「これは?」  「ハチミツです」  「ハチミツ?!」  この無色透明の物体がか?  ハチミツってのはもっと黄色いモノだと思ってたのはおれの勘違いだったのだろうか。  って、そんなことよりも!  「絵里、いったいこれをどこで手に入れたんだ?」  そう、仮にこれが本当にハチミツだったとしても、家にはハチミツなどなかったはずだ。  「はい、昨日のうちに作っておきました」  笑顔で答える絵里。  「作ったの?」  「はい」  「絵里が?」  「はい」  「どうやって?」  「はい」  「どのようにして?」  「はい」  「どんなふうにして?」  「はい」  「……参った」  「はい?」  あくまで笑顔で答え続ける絵里の視線に耐えきれず、おれはこの謎のハチミツの正体を聞き出すことを断念した。  そして、これはハチミツなんだと自分に言い聞かせる。  と、そこでおれはあることに気がついた。  「なあ、絵里。このハチミツは一体何に塗るんだ?」  チャーハンや七面鳥や目玉焼きにはさすがに塗らないだろうし、フレンチトーストにも既に味がついていて、物体Xに手を加え ることもためらわれる。  「あ、このハチミツは何に塗っても美味しいんですよ〜」  無邪気な顔で答える絵里。  塗れと、このハチミツを何かに塗れとおっしゃるのか?!  おれはとりあえず、ハチミツの味だけでも確かめるために、ビンのふたを開け、少しだけスプーンですくって嘗めてみた。  「…………ハチミツだ」  その味は、意外なほどにハチミツだった。  どうやら、無色透明なこと以外に普通のハチミツとの相違点はないらしい。  これでひとまずは安心だ。  さて、次に何に塗るか、これが問題だ。  絵里が期待に満ちた目でおれを見ている以上、何かに塗らないわけにはいかない。  チャーハンに塗るのは物理的に無理がある。第一、美味くなるとは思えないし。  目玉焼きに塗るのもパス。おれは目玉焼きは塩を振って食べることをポリシーとしてるのだ。  七面鳥に塗ると意外と美味いかもと一瞬思い、ナイフで少し肉を切り取ってみたら、見事に中まで味が染み込んでいるようだっ たのでやめることにした。  残るは2品。フレンチトーストと物体X。  フレンチトーストには味はついてることはついているが、ハチミツを塗って食べてもハチミツの味が上乗せされて美味しいかも しれない。  物体Xの場合、それ自体の味が想像できないため、ハチミツ味にしあげれば無難に食えるかもしれない。  よって……  「よし、絵里。決めたから食べるぞ」  「あ、はい」  「それでは、いただきます!」  「いただきます」  おれは、フレンチトースト・物体Xともにハチミツを塗って食べることにした。  まずはフレンチトーストを手に取り、ハチミツを薄く塗る。  そして食べる。  ……さすがに甘い。  だが、別に不味くなったというわけではないので、パクパクと食べる。  それを食べ終えるとすかさずチャーハンにうつる。  どうでもいいことだが、おれは一品一品制覇していくタイプなのだ。  さらに目玉焼き。  そして七面鳥。  最後に、物体X。  「……絵里、これは一体なんという料理なのかな?」  さすがに、何の情報もないまま口に運ぶのはためらわれた。  「ミシャレウデニスです」  いつでも笑顔の絵里。  「ミシャサンゲンキデス?」  「ミシャレウデニス、ですよ」  名前を聞いても、無駄であった。  ここは直球勝負で行くことにする。  「材料は何を使ったんだ?」  「ミシャとカウジリスをミタノで炒めて、それからムスクルシフロを加えただけですよ?」  ………余計にわからなくなった。  ただ、どうやら絵里のいた世界の料理であることだけは確かなようだ。  なら、食えないってことはないな。  というわけで、おれは当初の予定通り、ハチミツをつけてこのミシャなんとかを食べることにした。  「?!う〜む……」  意外とゆうか、やはりというか、未知の味がした。  美味いか不味いかの判別も難しい。  ただ、ハチミツの味だけがこれは食い物なんだということをおれに感じさせてくれる。  そんな感じで、おれはミシャなんとかをなんとか食べ終えた。  ちなみに、絵里は既に食べ終わっておれが食べているのをずっと眺めていた。  「ごちそうさまでした」  「ごちそうさまでした」  「さて、絵里。ここで一つ重大な発表がある」  「はい、なんでしょう」  「あの時計は何時を指してる?」  そう言っておれの背後にかかっている柱時計を、そちらを向かずに指差す。  「え〜と、もうすぐ10時ですね」  「ということは……」  「ああ、おやつの時間ですね!」  「違う!今日は学校休みじゃないんだぞ!完全に遅刻だ!!」  「ああ、なるほど」  「というわけでさっさと学校に行くぞ」  「は〜い」  というわけで、おれたちは人通りもまばらな通学路を悠々と歩いて学校に行くことにした。  まあ、今更急いでもしょうがないしな。  それに、あの朝飯を見た時点で遅刻は覚悟してたから焦りもない。「ご飯は残さずに食え!」とじいさんによく言われてた からな。  まあ、担任には怒られるだろうけど、それさえもささいな事に感じられるくらい今のおれは穏やかだ。
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6/25 第56話 「too late」

 「おっす!」  というわけで、おれ達は3時間目と4時間目の間の休み時間に堂々と教室に乗りこんだ。  「おっす、じゃないでしょ!あんた今何時だと思ってんのよ!」  予想通りというかなんというか、早速梓が俺に詰め寄ってくる。  「まあ休まなかっただけ良しとしようじゃないか」  一応フォローしてくれる道夫。  「でも、やっぱり遅刻はいけないわよ。遅れるならせめて連絡くらいしないと」  そして、時間にはうるさい由美。  けど、朝飯食ってるから遅れます、なんて学校に連絡出来るわけねーしな。  と、そうこう話しているうちに4時間目開始のチャイムが鳴る。  「よ〜し、お前ら席につけ〜」  すると、桐生先生がチャイムと同時に教室に入ってきた。  そうか、火曜日の4時間目は現代国語だったんだと妙に納得してしまうおれ。  「お、氷上夫妻は今ごろ出てきたのか」  ニヤっと笑いながら桐生先生が言う。  「いや〜、若いって羨ましいねえ」  イヤ、先生も十分若いですよ〜、とか返す気力は今のおれには残っていなかった。  「ま、それはいいとして授業を始めるぞ〜」  深い追求もないまま、さっさと授業を始めようとする桐生先生。  まあ、そういうあまり物事に拘らないさっぱりしたとこが、この先生のいい所でも悪いところでもあるのだが。  「起立、気を付け、礼!」  委員長の号令と共に、4時間目の授業が始まる。  「お、もう時間か。じゃあ今日はここまでにしよう」  チャイムと同時に、桐生先生は広げていた教科書を閉じる。  「起立、気を付け、礼!」  阿吽の呼吸で委員長の号令が響く。  みなが昼休みという束の間の休息を楽しもうとしていたその時、  「あ、そうそう」  急に何かを思い出したのか、桐生先生は教室を出る寸前でピタっと立ち止まった。  そして何故か俺と目があう。  「氷上、早瀬。お前達、遅刻の罰として今日の放課後、国語準備室の掃除をするように」  とだけ言ってスタスタと去っていった。  う〜む、さすがにお咎めなしというわけにはいかなかったか。  「よお、災難だな」  いつものペースで道夫が話しかけてくる。  「別にいいさ。こっちに非があるわけだしな。ところで、国語準備室ってどこだ?」  「それなら多分、宿直室のことじゃないかしら」  いつの間にかおれ達の側にやってきていた由美が答える。  「?うちの学校にそんな部屋あったか?」  「もう随分本来の目的では使われてないらしいけどね。一応あるにはあるわよ。もっとも、今じゃほとんど桐生先生の個室に なってるけど」  「梓、なんでお前がそんなこと知ってるんだ?」  「だって桐生先生、陸上部の顧問だし」  そういえばそうだったか。  「ま、そんなことより。早いとこ飯食いにいこうぜ。なんたって今日は聡のおごりなんだしな」  「へ?」  「サトシ、昨日の約束、忘れたなんて言わせないわよ〜〜?あんた、賭けに負けたんだからね」  すっかり忘れてました、ハイ。  と、いうことは胸にしまっておいて。  「忘れてなんかいないぞ。ただ知らんぷりしたかっただけだ」  「それはもっとダメなのでは?」  絵里、いらんところで突っ込まないでくれ。  「でも、もう思い出したよね〜?じゃあ、早速行きましょう」  由美が悪魔の笑みを浮かべて歩き出す。  おれは、その意気揚揚と学食に向かう集団にただついていくしかなかった。
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7/23 第57話 「lunch time」

 うちの学校の学食は、値段が良心的な所以外はいたって平凡な学食といっていい。  味・量・種類、どれをとっても可もなく不可もないといったところだ。  ただ、スペースだけはやたらく広く、ほとんど混雑しない。  まあその辺はありがたいところだが。  「さて、何にするかな」  食券の券売機の前で道夫が悩みだす。  この学食のスタンダードな品揃えでは、道夫の味覚は満たせないとは思うが。  「まあいいや。これにしとこう」  で、道夫が選んだのは定番中の定番、カレーライスであった。  「これなら色々トッピング出来るしな」  どうやら普通に食う気はないらしい。  「じゃあ、あたしはこれ」  梓が選んだのはハンバーグとフライドポテトがメインメニューのAセット。  ちゃっかりご飯は大盛りだったりする。  「私はこれね」  そう言ってきつねうどんを選ぶ由美。  「絵里ちゃんはどれにする?」  「あ、おれたちはさっき飯食ったばっかだから……」  と、おれが『昼飯は食わないぞ』と宣言しようとしたところ、  「あれが食べたいです」  物欲しそうな目でショーケースに陳列された冷やし中華を眺めていた絵里が、そう呟いた。  「冷やし中華?」  その視線に気づいた梓が不思議そうに尋ねる。  「あの食べ物を冷やし中華っていうんですか?」  「そうよ。でも、ここの学食って夏前から冷やし中華なんてやってたのね……」  「いや、俺は冬にも食ったことがあるぞ」  「基本的に、ここの学食って一年中メニュー変わらないみたいよ」  意外と情報通な由美がそう言う。  「その前に、絵里、お前本当に食うつもりか?」  「はい♪」  笑顔で答える絵里。  「あら、サトシは食わないのか?」  「ああ、まだ朝飯すら消化しきれてないんでな……」  「ダメですよ、聡さん。3食きちんと食べないと」  「いや、そんなこと言われてもな。っていうか、どうしてお前もう昼飯が食えるんだ?」  「健康ですから」  絵里の答えは、おれには理解不能だった。  「とにかく。おれはジュースだけ買って席で待ってるから、気にしないで飯買っててくれ」  そう早口で告げると、おれは自販機コーナーへと足早に向かった。  「絵里、あんまり食うと太るぞ」  そんなことを呟きつつパックのカフェオレを買ったおれは5人が座れる席を見つけてそこに腰をおろした。  「お、ここに居たのか」  するとすぐにカレーの乗ったトレイを手にした道夫たちが近づいてきた。  俺の左に道夫が、右に梓が、俺の向かい側の席に絵里が、絵里の左に由美がそれぞれ座る。  「んじゃ、早速食いますか」  「その前に聡くん?何か忘れてない?」  「へ?」  「確か、これって聡くんのおごりよね?」  ニコっと由美が微笑む。  「そういえばそうだったかな……」  「4人分の1500円、私が立て替えておいたから。今すぐ払ってね♪」  「……はい」  財布を取り出して由美に1500円を手渡すおれ。  「毎度♪」  「さて、そろそろ食わないとうどんものびちまうぞ」  「それもそうね」  「んじゃ」  「いただきます!」  おれをのぞく4人が揃って食前の挨拶をする。  そんな食事の様子をながめつつ、おれは軽くため息をつくのであった。
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8/4 第58話 「Consume?」

 で、食い終わって教室に戻り、つつがなく午後の授業も終了。  ついでに、これといった連絡事項もないようなので、HRも速攻で終わった。  さて、あとは帰るだけだな。  「じゃあ、帰るぞ絵里」  さっさと帰ろうと企むおれ。  「おう、そうだ氷上。お前逃げたりしたら留年決定だからな」  しかし、桐生先生にあっさり釘をさされてしまう。  どうやら見事にエスケープは見事に失敗したらしい。  あの先生は、かなり冗談めいたことでも、やるといった事はやる人なんで、逃げたりしたら本当に留年させられそうだ。  まあ、その前に出席日数でもヤバかったりするのだが。  「ま、しょうがねえか。じゃあ行くぞ絵里」  「はい」  「で、国語準備室ってのは何処にあるんだ?」  「さあ?」  まあ、絵里は知らなくて当然か。  むしろ知ってたら恐ろしいぞ。  「サトシ、あんた場所知らないんだろ?あたしが連れてってやるよ」  絵里との会話を聞いていたのか、梓がスタスタと近づいてくる。  「ああ、頼む」  おれは素直にその申し出を受け入れた。  「で、ここが噂の国語準備室ってとこか。割とまともなんだな」  外見は普通の教室の扉と変わらない。  「当たり前でしょうが」  梓があきれたように呟く。  「いや、あの先生のことだ。もっと奇抜な何かでも妙に納得できるんだが」  「まあ、それは言えてるけどね」  「あの、中に入らないんですか?」  「おっと、そうだった。んじゃ、サンクスな、梓。部活頑張れよ」  「ああ、サトシも頑張れよ」  ふっ、と何故か怪しい笑みを浮かべて梓が去っていった。  「?まあ、そりゃあ多少は頑張るけどな」  しかし、扉を開いたその瞬間、梓の笑みの理由がわかった。  「なんじゃこりゃ〜〜〜〜!!」  それは、異界といってよいほどの荒れ様だった。  足の踏み場もないとはよく使われる表現だが、ここではそんな言葉すら生温く感じる。  まさに、入りこむ余地もないほどに、本やら資料やら何故か人体模型やら地球儀やら着ぐるみやらで埋もれていた。  「い、一体どこから掃除すればいいんだ?!その前にどうやってここに入るんだよ!」  「はぁ、大変そうですねえ」  あまり大変そうには聞こえない声で絵里が呟く。  「じゃあ、さっさと終わらせてしまいましょ〜」  「え?」  驚いて隣りを見ると、絵里が目を閉じてなにやら呟いていた。  と、突然絵里の背中の羽根がその姿を現した!  「お、おい!何やってるんだよ!!」  その姿に何か嫌な予感を覚えたおれは、とっさに絵里の肩を後ろからつかんで揺さぶった。  「はい?なんでしょう?」  その甲斐あってか、絵里は羽根をなおしておれの方に向き直った。  「今……何しようとしてた?」  「何って、お掃除ですけど?」  いや、あれのどこが掃除なんだ?  「掃除って……いったいどんな風に掃除しようとしたんだ」  「はい。何だか聡さんが困っていたようなので、この部屋ごと消そうかと」  「何〜〜〜〜〜〜っ?!」  絵里、君はいつからそんな危険人物になったんだ?  ってか、そんなことも出来たのか……  「いや、そこまでせんでいいから。普通に掃除しよう」  「はぁ、そうですか」  絵里はなんだか残念そうだ。  とにもかくにも、おれたちは手前の方から普通に掃除を始めることにした。
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8/5 第59話 「On the way home」

 「ふぃ〜〜。やっと終わった〜〜」  大激戦を終えた俺はへたっとその場に座りこんだ。  途中、なんか重要そうな書類とか試験の過去問題とか婚姻届らしきものとかを絵里が捨てていたが、まあ別にいいだろう。  おれたちは「整理」ではなく「掃除」を頼まれたわけだし。  「おおっと、もうこんな時間か」  時計を見ると既に6時を回っていた。  あたりもそろそろ暗くなりはじめている。  「よし、絵里。ちゃっちゃと帰るぞ」  「はい」  こうしておれと絵里はすっかり片付いた国語準備室を後にした。  「う〜む、結構日が沈むの早いな」  薄闇に染まった校門への道を歩くおれと絵里。  ちなみに、うちの学校はそう部活が盛んなほうではないので、グラウンドにナイター設備などない。  だからかどうかはしらないが、グラウンドで練習していた部活の連中は、ほとんどいなくなっていた。  当然、陸上部の梓やサッカー部の道夫の姿は見当たらない。  「ま、当たり前か」  今は大会目前とかでもないしな。  どっちかというと新入部員の勧誘のほうが重要な時期だろうし。  そういえば、由美のいる新聞部は、去年の新入部員が由美一人だったらしい。  今年は何人ゲットできることやら。  「あら?」  急に、絵里が立ち止まる。  「ん?どうした?」  「あれは誰でしょう?」  絵里が指差した校門の脇には、確かに人影があった。  どうやら、誰か人を待っているようだ。  「う〜む、こっからじゃよくわからないな。まあ、どうせ梓か道夫だろう」  どうしてか、その人影の待ち人がおれたちのような気がしたので、そう答えた。  シルエット的に、由美にしては背が高すぎるので、由美ではないだろう。  「ま、とりあえず行ってみようぜ」  「はい」  校門に近づくおれと絵里。  次第に、その人影の輪郭がはっきりとしてくる。  あれは……男か?しかも道夫よりも少し細いな……  なら、おれたちとは関係ないか。  そう思い、さっさと校門を通り抜けようとすると、その男は何故かおれたちの目の前に立ちはだかった。  「あんた、おれたちに何か用でもあるのか?」  しかし、男は何も答えない。  「用がないならおれたちは行かせてもらうぜ」  そう言って男の横を通り過ぎようとするが、おれが進む方向に男も進んで邪魔をする。  「何なんだよ、あんた一体!おい、絵里。走るぞ………絵里?」  そこで始めて、おれは絵里の様子がいつもと違うことに気が付いた。
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8/6 第60話 「means」

 「絵里?どうしたんだ?」  しかし、絵里はおれの問いかけには答えず、じっと目の前の男を見つめている。  と、男がおれ達の方に一歩足を踏み出した。  刹那、月光に照らされて男の全身がはっきりと現れた。  「同じ……髪の色?!」  おれはまず、その男の髪に目がいった。  そう。その男の髪は絵里と同じく白に近い美しい銀髪であったのだ。  「八百屋のおやじたちがいってのは、こいつのことか?」  いや、間違いなくそうだろう。  この日本にそうそうこんな髪の人間が居るとは思えない。  「私……知ってる?」  ふと、絵里のそんな呟きが聞こえたような気がした。  そしてふらふらとその男の方へ近づいていく絵里。  「おい、待て、ぐっ!!!」  そんな絵里に近づこうとしたおれは、急に体がいうことをきかなくなった。  「な、なんなんだよいったい!」  言葉を発すること自体も苦しいが、おれは叫ばずにはいられなかった。  「絵里!行くな!そいつは何か危険だ!!」  「そう、まだ行かせるわけにはいかないわ」  その言葉が聞こえた瞬間、おれの身体の戒めが解け、おれは絵里の腕をつかんでその場に止まらせた。  絵里の方もどうやら正気に戻ったらしく、  「あれ、聡さん?いつのまにそんな所に」  いつもののほほんとした声で答えた。  「どうやら、間に合ったみたいね」  そしておれ達を救った声の主─ケイは、ちょうどおれ達と男の間に立ちはだかるように空から舞い降りた。  「ケイ!いったいどういうことだ?それにあいつは誰なんだよ!」  おれは、表情一つ変えずに立っている男を指差してケイに叫んだ。  するとケイはちょっと困ったように頬を掻いて、  「やっぱ気になる?」  「当たり前だ!」  「なら、直接本人に聞いてちょうだい」  いや、あの人ここまで一言も喋ってくれないんですけど。  「じゃあ、ちょっと待っててね。私達の世界の言語情報をあなたに渡すから」  そう言って、ケイはおれの手を掴んだかと思うと、おもむろに手の甲に口付けた。  「ちょ、あんた、何してんだよ?!」  「あら、照れちゃって〜。可愛いとこあるのね」  口付けを終えたケイは、くすっ、と悪戯に微笑んだ。  「まあ、それはともかく、私たちにとってキスは愛情表現の他に情報伝達の手段でもあるのよ。本当は口と口でキスした方が 正確な情報が伝わるんだけどね。なんか色々問題ありそうなんで手で我慢しておいたわ」  ……本気で口にキスするつもりだったな、こいつは。  危うくおれのファーストキスが奪われる……いや、待てよ。  ファーストキス。  その言葉が、何故か心に引っかかった。

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