わんだふる☆わーるど

 

4/8 第1話 「BOY MEETS GIRL」

 春。それは出会いの季節。  おれの心も妙に浮かれていた。  別に何かを期待してるわけじゃない。  今まで生きてきた17年間で劇的な出会いが訪れた事など一度もなかったしな。  それでも春はなんだか好きだ。この陽気がそうさせるのかもしれない。  そんなどーでもいーよーなことをだらだら考えながら、日曜日の公園通りを歩いていると、急に目の前に影がさした。  そして、次の瞬間、  「ぐふっ!!」  おれの鳩尾に何者かの肘、いや膝か?ええいどっちでもいい、とにかく何かが見事に決まった。  その何者かに押し倒される形となったおれは、しばらくの間、呼吸をすることが出来ず、目も開けられなかった。  「……っぷはぁ〜〜」  おれにいきなりフライングボディプレスかなにかをしかけてきた何者かが、ようやくおれの上からおりた。  「おい!いきなり何すん……って、え?」  そこでおれは、始めて相手の姿を見た。  女の子だ。  見たこともない服や装飾品を身につけていて、しかも立派な羽根までついている。  どこかのイベント会場から抜け出してきたのか?  「あ……」  と、おれが声を掛けようとした瞬間、彼女が先に俺に問いかけてきた。  「あの!私って誰ですか?」  その突拍子もない問いに、おれはしばらくの間沈黙を守ることしか出来なかった。
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4/9 第2話 「JUST COMMUNICATION」

 「…………はい?」  ようやくおれの口から出た言葉は、そんな間の抜けた声だった。  「やっぱり、知りません、よね?」  そう言って目の前の少女は、必死で何かを思いだそうとしきりに首を傾げたり、神に感謝するビスマルクに似たポーズ をとったりしている。  一体なんなんだ、この娘は?  ふと、視線を感じる。  げ!!いつのまにこんなにギャラリーが集まってたんだ?!  そりゃ、セミロングの白い髪と青い瞳の北欧系の顔立ちをしていて、どっかのRPGの魔法使いがしているような格好 で、おまけに羽根までつけてる彼女は、確かに目をひくけどさ。  というより、完全にこの場から浮いている。  その時、おれは気づいた。  おれは彼女の前に立ち、そして彼女はおれの前に座り込んで目をこすっている。  これは……  おれが彼女を泣かせている?  そう思われても不思議じゃない構図だ。  い、いかん、男としてそんな誤解をされることだけは絶対に避けなければ!  死んだじいちゃんもよく言ってたもんだ。「女ぁ泣かすやつぁ男じゃぁねぇ」って。  こんな時は……  1何事もなかったかのようにこの場から立ち去る  2彼女を誘って別の場所へ連れてゆく  3宇宙の意志に従う  よし、3……?!  「ぐぉっ!!」  強烈な痛みがおれの頭の中をほとばしる。  ふう、危うくゼロシステムにとりこまれるところだったぜ。  迷わずに2番を選んだおれは、彼女に声をかけた。  「あのさ、ここじゃ通行の邪魔になるみたいだから、別の場所に移動しないか?」  おれのその言葉に、彼女は素直にうなずいた。
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4/10 第3話 「Welcom to my home!」

 さて、勢いで手を引っ張ってきちまったが、何処へ行こう?  出来ればあんまり長い間外には出てたくないな。またギャラリーが集まって、あらぬ誤解をうける恐れがある。  その中に知り合いでもいた日にゃもう最悪だ。  どんな噂になるかわかったもんじゃねー。  かといって、どっかの店に入るってわけにもいかねーだろうな、この格好じゃ。わざわざ注目を集めにいくよう なもんだ。  近場で目立たない場所といったら……………だな。  おれに残された選択肢はすでに一つに絞られていた。っていうか既に選択肢ですらなくなっている。  その場所とは、つまりおれの家だ。  幸か不幸か、おれの両親は今日から7泊8日の温泉旅行に行っている。なんでも商店街の福引の特賞が当たった らしい。  だから、知り合いに連れて入る現場を見られない限りは一番安全で落ち着けるところではある。  そしておれは、周りに誰もいないことを確認しつつ、彼女をおれの家へ招き入れた。  「とりあえず、ここに座っといてくれ」  おれは彼女を居間のソファーに座らせた。一瞬、座るのにはあの羽根邪魔なんじゃないか、とか思ったが、意外 と大丈夫そうだ。  まったく、よく出来てるもんだ。  「何か飲むか?」  おれは冷蔵庫の中をあさくりながら、彼女にそう聞いた。  しかし、彼女は物珍しそうに辺りを見回していて、おれの問いには答えてくれない。  おれはしかたなく二人分のジュースを持って彼女の前に腰を下ろした。  彼女は目の前におかれたジュースを真剣に見つめ、そしておれにこう言った。  「これは……なんですか?」  「サ○レイオレンジジュース」  おれは即答した。  しかし、彼女は「はぁ」と軽く受けただけで、まだ首を傾げている。  う〜ん、コーラの方がよかったのか?  いや、違う。  あれは別にオレンジジュースが嫌いといった表情じゃない。  あれは、そう、まるで初めて見るものに注がれる好奇心と不安に溢れた視線に近い。  もしかすると、  (記憶喪失………)  そんな言葉がおれの頭をかすめる。  確かに彼女は自分を誰かと尋ねた。自分の記憶をなくしているのだから、多分、彼女はそうなのだろう。  しかし、オレンジジュースのことまで忘れているとは考えにくい。  もともと深く考えることが苦手なおれは、単刀直入に彼女に尋ねた。  「一体君は何者なんだ?」  「わかりません」  間髪いれずに彼女は答える。  当たり前だ。  基本的には記憶喪失なのだろうから。  「それじゃあ、君の名前は?」
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4/11 第4話 「What's your name?」

 おれは、質問を変えてみた。  美月も麻由もマリアも、自分の名前くらいは覚えてたんだ、この娘だって。  「わかりません」  おれの淡い期待は彼女に一刀両断された。  くっそ〜、何もかも忘れてるってことか?!  「じゃあ、さっきおれとぶつかったことは?」  「え?」  そう言った彼女はきょとんとした目でおれを見つめている。  どうやら、さっきのことも覚えてないらしい。  いつまでたっても謝ろうともしないから、おかしいとは思ってたけどさ。  ………待てよ。  もしかしたら、さっきぶつっかったショックで記憶喪失になったんじゃ……  うつむいて考え込んでいたおれは、ちらりと彼女に視線を向ける。  彼女はおれの悩みなど何処吹く風といった感じでストローでジュースをかき回している。  まだジュースには一口も手をつけてない。  やっぱり、嫌いなのかな?  う〜ん、好きな物でも聞いてみるか。でも、名前がわからんことには、どーも話しづらい。いつまでも「彼女」や「女の子」 じゃどうにも決まりが悪いからな。  そうだ、まず名前を決めよう。(仮)でもいいから。  男だったら速攻で「名無しのごんべえ=ゴンベイ=ゴン」決定だが、女の子の場合そうもいかないだろう。  宙を仰いで考えていたおれに、あるひとつの名前が浮かんだ。おおっ、これぞまさしく神の導きというもんだ。  よし、決めた!この娘の名前は……  「エルよ」  突然耳に飛び込んできた艶のある声に、おれの思考は中断された。  慌てて声のしたほうを振り向くと、そこには、やけにボディーラインの強調された派手な赤い服を身にまとった、ブロンドで ストレートの長い髪とブラウンに輝く瞳の、いかにもアメリカンといった感じのナイスバディのセクシーねーちゃんが、いつの まにか立っていた。  これだけド派手な格好をしていながら、不思議とケバくはなっていない。  その格好も、エルと呼ばれた目の前の彼女と同じく、イベント会場ぐらいでしかお目にかかれないような、どっかの格闘ゲー ムのキャラクターぐらいしかしていなさそうなものだった。  呆気にとられるおれを尻目に、セクシーねーちゃんはつかつかとおれに近づいてきた。
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4/12 第5話 「Sexy Sister」

 「その娘の名前はエル。そして私はケイよ。セクシーねーちゃんなんかじゃないわ」  まるでおれの考えを見透かしたようにセクシー……もとい、ケイは言った。  ふと、おれの頭に一つの疑問が浮かぶ。  「あんた、どっから入ってきたんだ?」  「玄関よ。鍵開いてたもの」  「なるほど……って違〜う!なんで勝手に人のうちにあがってるんだよ」  「あら、いけなかったかしら?」  「駄目に決まってんだろ」  「それは残念ね、折角その娘のこと教えてあげようと思ったのに。邪魔者は退散することにするわ」  「…………え?!」  それは、ケイを引き留める理由になる魅力を十二分に秘めた言葉だった。  すでにケイは玄関で靴を履こうとしている。  その姿は妙に色っぽ……って今は見とれてる場合じゃねーだろうが。  「ちょ、ちょっと待ってくれ」  おれは、ケイを慌てて呼び止めた。  「どうやら気が変わったみたいね」  ケイは悪戯な笑みをおれに向ける。  まさにセクシーねーちゃんって感じだ。  「……やっぱり帰るわ」  「?!あんた、もしかしておれが考えてることわかるのか?」  「そんなわけないでしょ。あなたが判りやすいだけよ、氷上聡くん」  「!!!なんでおれの名前を!」  「表札に書いてあったわよ」  「あ、そうか」  おれは納得した。  「で、エルの何が知りたいの?」  そう聞かれておれは、そういや彼女……エルの存在感が全くないことに思い当たり、ふとソファーのほうを向いてみる。  するとエルは、オレンジジュースを凝視したまま微動だにしていなかった。
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4/13 第6話 「Where you are come from?」

    「何やってるんだ?」  「え?」  エルはハッと気づいたようにおれの方を向いた。  「えと、あの、この水どうして色がついてるのかな〜って考えてました」  「はぁ?!」  その突飛な答えにおれは奇妙な声をあげる。  「無理もないわ。私たちの世界にはもともと色つきの液体というものは存在しないもの」  おれの疑問に答えるようにケイが呟く。  ………ん?ちょっと待て。  「世界って……」  「氷上くん、パラレルワールドって言葉知ってる?」  いきなりケイがそんなことを聞いてきた。  「パラソルワイルド?」  「パラレルワールドよ。知ってるの?」  「知らない」  おれは即座に答えた。  「じゃあ、タイムパラドックスは?」  「知らん」  「ミッシングリンク」  「なんじゃそりゃ」  「ヘッジホッグズジレンマ」  「それも知らんが……なんとなく関係ないようなきがするぞ」  「その通り。関係ないわよ。ついでにミッシングリンクもね」  「だぁ!まぎらわしいことすな!」  「分かったわ。まあ、落ち着いて聞いてね。エルにも聞かせてあげるわ。あなたが何者かをね。まあ、すぐには思い出せ ないでしょうけど……」  そう言うとケイは深くため息をつき、静かに語り始めた。
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4/14 第7話 「ANOTHER WORLD」

   「あなたも薄々気づいてると思うけど、私たちは普通の人間じゃないわ」  え?!そうなのか?全然わからなかった。  「………その顔、気づいてなかったみたいね。まあいいわ。私たちはこの世界とは次元の違う別の世界からきたの」  「そうなんですか?」  エルが不思議そうな顔でケイにたずねる。  「そうよ。そしてケイ、あなたは私の妹なのよ」  「え?!」  驚いたおれは、思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。  全然似てねー。  「氷上くん。あなた今、全然似てねーとか思ったでしょ?」  「あ、いや、そんなことは……」  「いいのよ、別に。似てないのは確かだし。でもね、それはこっちの世界の姉妹と、私たちの世界の姉妹との意味の違いに よるものなのよ」  「意味?」  「そう。私たちが似てないのは当たり前。別に同じ親から生まれたわけじゃないもの」  「へ?じゃあ、姉妹じゃないんじゃ……」  「私たちの世界では、不思議なことに一組の夫婦からは一人の子供しか生まれてこないのよ。だから、本物の姉妹というも のは、私たちの世界には存在しないわ」  「え?一人っ子政策でも奨励されてるのか?」  「そういうことじゃなくて、そういう世界なのよ。で、私たちの世界でいう姉妹や兄弟というのは、そうね、この世界でい うと家庭教師と生徒の関係といったところかしら」  「家庭教師?」  「そう、姉が家庭教師で妹が生徒。だから、私はエルの家庭教師みたいなものよ」  そう言ってケイはエルに微笑みかけた。  エルは反射的にケイに微笑みを返したが、なんとなくぎこちなさが残っている。  「で、その家庭教師と生徒がどうしてこっちに来たんだ?課外授業かなんかか?」  おれはケイの話を信じたわけではなかったが、少し興味を覚えたので、話をあわせる事にした。  でも、課外授業だなんて……  「ご明察。その通りよ」  …………マジっすか。
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4/15 第8話 「Choose The World」

   「私たちの世界には学校というものが存在しないわ。そのかわり、私たち年上の者が、年下の者の教育をしなければ いけないの」  「ふ〜ん。それで?それが課外授業となんの関係があるんだ?」  「カリキュラムの一つに組み込まれてるのよ。この世界での課外授業が」  「カリキュラム?!」  「そう。一週間ほどこの世界で暮らすこと。そしてその後、決断すること」  「決断?何を」  「もとの世界に戻るか、この世界に留まるかをよ」  「は?!」  はっきり言っておれは混乱した。  それって、ひょっとしてあの娘、エルの人生にとってとてつもなく重要なことなんじゃ……  おれはエルの方に目を向ける。  ……駄目だ。あの顔なんにもわかってねえ。  「なあ、一つ聞いていいか」  「何?」  「一週間この世界で暮らすって言ってたよな」  「ええ」  「何処で暮らすんだ?」  「ここよ」  そう言ってケイは自分の足元を指さした。  「地下?」  首を横に振るケイ。  「……やっぱり、うちなのか?」  「その通り。なんの為にあなたのご両親に温泉旅行をプレゼントしたと思ってるの」  「な……じゃあ、あれは……」  「そう。私が力をかしたの」  やっぱりな。  うちの親が特賞だなんて、なんだか怪しいと思ってたんだ。  「そういうことで、エルをお願いね。ちゃんと転校の手続きは済ませてあるから」  「え?!転校?」
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4/16 第9話 「With」

   おれは、激しく動揺した。  「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの娘が学校に行くのか?」  「そうよ。明日からあなたと同じ学校にね」  「はぁ?!」  「そんな間の抜けた顔しないでよ。こっちまで力が抜けるじゃない」  「いいのかよ、学校なんかに通わせて。あの娘、記憶を失くしてるんだぜ?」  「別に問題ないわよ。エルはもともとこの世界のことをよく知らないんだから」  「……余計悪いんじゃね〜のか?」  「だからあなたに頼んでるんじゃないの」  「何を?」  「エルのことよ。今日からあなたたち二人は一つ屋根の下で暮らすのよ」  「なに〜〜!!」  おれは反射的にもの凄い声で叫んでいた。  「な、なにもそんなに驚くことないじゃない。前にもここに住むって言ったでしょ」  そういやそうだった。  でも、そのときは事の重大さに全く気づいてなかったもんな。  ふと、エルの方に目をやる。  やっぱり、二人の会話に全くついていけてないようだ。  「あんたもここに住むのか?」  ちょっと気になったことをケイに聞く。  「いいえ。ここに住むのはあなたたち二人だけよ」  二人だけ……  改めて、おれはエルをじっと見てみる。    ……………………か、かわいい。  めちゃくちゃ好みのタイプだ。  そういや、あの時ぶつかってから気が動転してたこもあって、そんなにエルの顔をよく見てなかったもんな。  ……ん?ぶつかった?  ふと疑問を覚えたおれは、ためしにケイに聞いてみることにした。
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第10話 「WINGS」

   「なあ、ちょっと聞いていいか?」  「何?」  「あんたは、おれとこの娘がぶつかるとこを見てたのか?」  「ええ、見ていたわ」  「この娘、どっからきたんだ?」  そう、これがずっと気になっていた。  いくらおれがぼーっとしていたとはいえ、目の前に人がいたら気づくだろう。  それに正面衝突ならあんな攻撃はくらわないはずだ。  結果、おれにはエルが突然現れたとしか思えなかった。  ケイのいう別世界からやってきた瞬間にでもぶつかったのだろうか?  しかし、ケイは天井を指さしてこう答えた。  「空よ」  「空?!」  「そう。なんの為に翼が生えてると思ってるのよ」  「え?あれって飾りじゃ……」  そう言っておれはまたまたエルのほうに目をやる。  なるほど、言われてみれば作り物とは思えないほど繊細な輝きを放っているのがわかる。  そして、エルの動きにあわせてわずかに動いていることも。  「でもよ、あんたには……」  再びケイの方を見たおれは絶句した。  翼だ。  エルと同じように立派な2枚の白い翼が背中に生えている。  そして、どういう原理かわからないが、ケイの足は床から離れていた。  そう、浮いていたのだ。  「こういうことよ」  ケイはおれに高い位置から微笑みを投げかけてきた。    

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