そばに居るだけでいいと思ってた。
 あなただけ見てればいいと思ってた。
 そしたら、いつか気づいてくれるって。

 でも……

 近くて遠い二人の距離。
 近すぎて触れ合えなかった二人の関係。
 私は、勇気を出して一歩進みます。
 誰よりも好きな、あなたのために。



風の舞う場所

〜The First Gale In The Spring〜

 穏やかな陽射しが二人を包み込んでいる。  季節は春。  通い慣れた道をいつものように並んで歩く二人。  でも、彼の横にはいつもとは違う彼女の横顔があった。    「……髪型、変えたんだな」  「そうだよ。変かな?」  少しはにかんで聞いてくる彼女。  「いや、そんなことねえよ。似合ってるぜ」  ちょっと照れくさそうに答える彼。  それは、普段の何気ない会話とは少し感じが違っていた。  他人には同じように見えたかもしれない。  けれど二人は、お互いの微妙な変化に気づき始めていた。  「なあ、どうして急に髪型変えたりしたんだ?」  内心の動揺を悟られないように彼はたずねる。  「うん。なんとなく」  いつもと変わらぬ微笑みを彼女は向ける。  「なんとなく、ってお前な〜。そんな理由で髪型変えるなら俺なんか毎日変えなきゃいけないぜ?」  「え?どうして?」  「俺は毎日をなんとなく生きてる男だからさ」  「またまた〜」  他愛ない会話を繰り返す二人。  それは、すでに昨日までの二人と何も変わっていないように見えた。    でも……  強い春の風が、二人の間をすり抜けてゆく。  わたしの気持ちを後押しするような、そんな風が。  大丈夫。きっと気づいてくれる。  わたしが選んだ、ひとかけらの勇気。  この風に運ばれて、あなたの元へと届くと信じて。  そして、少しづつ近づく二人の距離。  
―終―

イラスト:HIRORUさん BGM ゲーム『ToHeart』より「輝き」 MIDI制作者:Rougeさん