「おや?」 椎名は、校門から出てすぐの所に見知った顔を見つけた。 「よお、花梨。こんな所で何やってるんだ?」 「はややや、し、椎名!し〜っ、し〜〜っです」 口の前に人差し指を出して、必死に椎名に静かにするよう訴えかける花梨。 しかし、その花梨の声がさっきの椎名の声より大きかったりするのだが。 「ああ、わかった」 それでも、椎名は花梨の言葉に従い声を潜めてそう言った。 すると、花梨もにっこりと笑ってそれに応える。 「で、何やってんだ?」 小声で椎名が尋ねる。 「花梨、追われてるです」 「は?!」 つい声が大きくなってしまう椎名。 すると、ちょっとキツめの目で花梨が睨んでくる。 椎名は手を合わせて『ゴメン』というジェスチャーを返す。 すると花梨が『うむ、わかった』といった風にうなずく。 「追われてるって、誰に?葵と喧嘩でもしたのか?」 再び小声で椎名が語りかける。 「違うです。花梨、喧嘩なんかしてないです。それに、誰が花梨を追ってるのかもわかりません」 「でも、誰かがお前を追ってるってのは分かってるのか?」 「はい。間違いないです。天使(の卵)の勘はよく当たるですよ」 「……勘、ねえ」 「あ〜、椎名!信じてないですね!!」 と、今度は花梨の声が大きくなる。 花梨は慌てて口を手で押さえたものの、すでに声は発せられた後で校門から出てきていた女子生徒が何事かと花梨を見つめて いた。 が、花梨が愛想笑いを返そうとすると、その女子生徒はものすごいスピードで去っていった。 「……今の、理香子ちゃんだったよな?」 「速すぎてわからなかったです」 「にしても、ここは目立ちすぎるぞ?花梨、お前そもそもここに何しに来たんだ?」 もう疲れたのか、椎名は普通の声で喋っている。 もっとも、辺りは下校する生徒たちで賑わっているので小声で話すと聞こえなかったりするのだが。 「だから、追っ手を振り切ってたです」 「追っ手ねえ。その辺でたい焼きでも食い逃げして、たい焼き屋の親父に追っかけられてるんじゃないのか?」 「うぐぅ」 「ほら、やっぱり」 「……椎名は意地悪です」 ちょっと涙目になる花梨。 「う、ゴメン。悪かったよ。ちょっとからかいすぎた」 頭をぽりぽりと掻きながら、花梨に謝る椎名。 古今東西、男は女の子の涙に弱いものである。 それが例え作り物であっても。 「じゃあ、アイミルチャに行くです♪」 にぱっ、と笑って花梨が言う。 「……まあ、別にいいけど。それよりその追っ手はアイミルチャにはいないのか?」 「いませんよ。天使(の卵)の勘です」 「はいはい。お姫様の仰せの通りに」 やれやれといった感じで歩き出す椎名。 その横を顔を綻ばせて歩いていく花梨。 そして── 椎名と花梨をよろよろとした足取りで追う青い影が一つ。 その名は、アオイ。 (ご飯……ちょうだい……) と、一声鳴いて、彼はついにその場に倒れてしまった。 その後、この幸福の青い鳥の姿を見た者は誰も……… 「あ、アオイ……どうしたの??!!」 というわけで、偶然通りがかった奈菜に助けられてアオイは事無きを得たそうな。 めでたしめでたし? 追いかけてんたま
─終劇─