たまごのまんま Ver.1.02 〜Maniax edition〜

 「浩之、あれなんだと思う?」  日曜日、なんとなく雅史と二人で公園をぶらぶらしていると、目の前にある“もの”を指差して雅史が聞いてきた。  「……卵、じゃねえのか。多分」  「多分、そうだろうね」  何故おれたちが不確定要素を含んだ言いまわしをしたかというと、その大きさが半端じゃなかったからだ。  目測でダチョウの卵のおよそ1.5倍〜2倍近くはありそうだ。  けど、形はちゃんと“卵型”なんだよな。  決定。あれは卵だ。  「でも、なんでこんなところに落ちてるんだろうね」  ゆっくりとその卵らしきものに近づきながら雅史が聞いてくる。  「いや、落ちてるっていうよりか、あれは誰かが置いたんじゃねーのか?」  その卵は公園で一番人気の多い噴水の側のベンチにあった。  しかし、誰もその卵の周りには寄ろうとしていない。  完璧になかったことにされてるようだ。  「にしてもでかいな」  「そうだね」  卵のすぐ側まで近づいて、あらためてその大きさに驚く。  「一体何の卵なんだ?」  「ダチョウじゃないの」  「いや、ダチョウでもこんなにでかくねーって。第一、この辺に野生のダチョウなんていねーだろ」  「確かにそうだね」  俺は静かにその卵に触れた。  むむ、なんかゴツゴツしてやがる。  軽く叩いてみると、中身のつまった重い音が返ってきた。  「……実はスイカなんじゃねーか?」  「そんなことはないと思うよ」  まあ、確かに。  「よし、持って帰るぞ」  「え、飼うの?」  おいおい、まだ孵化もしてないのにどうやって飼えと?  「バカ、食うんだよ」  そして俺はそのずっしりと重たい卵を抱えて、家へと帰っていった。  「人肌で温めるんだよね」  ……そんなに育てたいか?  「さて」  台所にその卵を置いて、俺は思考を巡らせていた。  「どうやって料理するか」  これだけでかいと、調理の仕方にも悩んでしまう。  もっとも、ゆで卵と目玉焼きだけはできそうになかったが。そんなどでかい鍋とかフライパンうちにねーし。  そして、といて使ったとしても、俺の料理の腕では卵焼きとかスクランブルエッグぐらいしか作れない。  「あかりちゃん呼んだほうがいいんじゃない?」  「ああ、俺も今そう思ったところだ」  早速あかりの家に電話をかける。  「もしもし……あ、あかりか?いい食材が手に入ったから、今からうちに来てくれねーか?ああ、わかった。じゃあな」  「あかりちゃん、どうだった?」  「すぐ来るってよ」  ピンポーン  「浩之ちゃ〜ん、来たよ〜」  「……本当にすぐだね」  「まあ、すぐそこだしな。あかり〜、あがっていいぞ……って、え?おばさん?!」  俺が玄関まであかりを迎えに行くと、そこには何故かあかりではなく、あかりの母親のひかりさんがいた。  しかも、何故か隣には、ひかりさんと同い年くらいの見知らぬ女の人がいる。  主婦仲間だろうか?  「浩之君、こんにちは」  「あ、こんにちは……じゃなくて!あかりはどうしたんです?」  「あかりなら志保ちゃんの家に遊びに行ってるわよ」  「そうなんですか……って、え?じゃあ、あの電話は……」  「どう?まだまだ若いでしょ」  何故か悪戯っぽく微笑むひかりさん。  しっかし、全然気づかなかった。  「どうしたの、浩之……あ、おばさんこんにちは。浩之に何か用ですか?」  俺の帰りが遅いのを不思議に思ったのか、雅史がやってきた。  「違うのよ。浩之君が私を呼んだの」  「そうなの?」  「いや、そういうわけじゃ……」  「でも、惜しいわね。私達はこれから料理教室に行くところなのよ。せっかくのお誘いなのに残念だわ。ね、秋子さん」  「ええ、本当に」  だから誘ってませんって。  「ええと、そちらの方は?」  さすがに気になったのか、雅史がひかりさんに隣に佇む女の人について聞いた。  「こちらは水瀬秋子さん。料理教室で仲良くなったのよ」  「了承」  ……とりあえず、不思議な人だということはわかった。  「じゃあ、秋子さんそろそろ……」  「そうですね。あ、よかったらこれ使ってください」  「……ジャム、ですか?」  「ええ」  何故に?  「ところで、これは何ジャムなんですか?」  雅史が俺に手渡されたビンの中身を不思議そうに見ながらたずねた。  確かに、この色はただ事じゃねえ。  イチゴでもリンゴでも、ましてやマーマレードでもなさそうだ。  「もちろん、秘密です」  ……よそう、深く考えるのは。  雅史も、危険な香りを察したらしく、それ以上追求しようとはしなかった。  「じゃあ、浩之君、あかりをよろしくね」  そう言って、ひかりさんと秋子さんは立ち去っていった。  「……一体何しに来たんだ、あの人たちは」  「ねえ、浩之。それよりあかりちゃんは?」  「おっとそうだった」  早速おれは志保の家に電話をすることにした。  「あ、志保か?そっちにあかりが来てるだろ。ちょっと代わってくれ。……おう、あかり。今からうちに来てくれ。志保には 内緒でな。は?無理?バカ、最初から諦めてどうする!ちったあ頭使えよ。ったく、しょーがねーなあ。おれが秘策を授けてや るからそれを実行しろ。いいか……」  結局、秘策を伝授するのに10分近くかかってしまった。  「別に志保も呼んでいいんじゃないの?」  「バカ、あいつがこんなもん見たら明日学校で無いこと無いこと言いふらすに決まってるだろ?」  「それもそうだね。でも、あかりちゃん本当にあれやるのかな」  「やる。あいつにはやるしか道は残されてない」  ピ〜ンポ〜ン  「あ、あかりちゃんかな」  「多分そうだろう」  というわけで、作戦の成否を確かめるため玄関へと向かう。  「おっす、あかり」  「ぴこぴこぴっこり」  「……あかりちゃん、本当にやったんだ……」  「おし、あかり、“ポテト大作戦”は只今をもって終了だ」  「ふぅ、疲れたよ〜。志保には変な目で見られるし」  「うむ、それが狙いだ」  「もお、浩之ちゃんの意地悪!」  「しょーがねーじゃねえか、お前はただでさえ犬チックなんだし」  「そんなの理由になんないよ」  「まあまあ、二人とも。とにかく、中に入ろうよ」  二人の間をとりもつように、雅史が促す。  「それもそうだな」  「じゃあ、お邪魔しま〜す………って、え?何?」  台所に入ってすぐ目にした卵に、あかりは驚いたようだった。  「何って、これがフカヒレに見えるか?」  「卵?」  おれのボケはあっさりと流されてしまった。  「……まあ、そうだろうな」  「何の?」  「謎だ」  「飼うの?」  「雅史と同じボケするんじゃねー!」  とりあえず、ピシッとあかりの頭にチョップを叩き込んでおく。  「あいたた……」  「ったく。これは食うの。だからあかり呼んだんじゃねーか」  「あ、そうだったんだ。なら志保も呼んでよかったんじゃ………ひゃっ!」  おれはあかりに膝カックンを食らわせた。  「また雅史と同じこと言いやがって。お前ら幼馴染みか?」  「そうだよ」  ナイスだ雅史。  「でも、こんなに大きな卵、どこから持ってきたの?」  そんなおれらの漫才を気にした風もなく、あかりが聞いてきた。  「公園で拾ってきたんだ」  「え?」  「まあ、捨てる神あれば拾う神ありってことで」  「へ〜。じゃあ、まずは人肌で温めないとね」  グリグリグリグリ……  「あう〜あう〜」  俺は無言であかりのこめかみをグリグリしていた。  ったく、二度ならず三度までも雅史と同じことを……って今のはいわゆる「あかりギャグ」だったような気がするが、気のせい だろう。  「イタタタ…ひどいよ、浩之ちゃん」  「まあ、それはそれとして、そろそろ料理にかかるか」  「うん、そうだね」  「二人でまとめないでよ。くすん」  「さて、まずはどーすんだ?」  俺は拗ねてるあかりに聞いた。  「……そうだね。これだけ大きいと、まずはやっぱり割った方がいいと思うな」  「まあ、そうだろうな。よし」  そこで、卵を持ち上げてテーブルの角に打ちつける。  ガンガンガン!  なんか、ものすごく嫌な音がしてる気がするが、さらに激しく叩きつける!  ガンガンガンガンガンガンバキ!  「……バキ?」  「浩之ちゃん……割れたよ」  「テーブルがね」  「なんですと〜!!」  見ると、本当にテーブルが割れていた。しかも真っ二つに。  「どうして教えてくれないんだ!」  とりあえず、二人に当たってみる。  「叫んだけど、浩之ちゃん全然気づかないし」  「それに、なんか楽しそうだったしね」  いや、実際楽しかったけどな。  「あ、そういや卵は?」  俺は危うく本来の目的を忘れるとこだった。  「無傷」  雅史のその言葉が無常にも台所に響く。  「……いい度胸じゃねーか。こうなったら何がなんでも割ってやる!」  「あ、浩之ちゃんどこに行くの?!」  「ふふ、あかり、止めるなよ……」  「浩之、目が怖いよ」  「だ、ダメだよ浩之ちゃん!こんなとこでエルクゥの血を開放したら!」  「そんなこと、できるか!」  とりあえずあかりに突っ込んでおく。  「うう、じゃあどうするつもりなの?」  「いやなに、ちょっと助っ人を頼もうかと思ってな」  「助っ人?」  「そういうわけでちょっくら電話してくる」  「浩之……誰を呼ぶつもりなんだろ」  「なんだか不安……」  ──10分後  ピンポーン♪  「お、来た来た」  俺が玄関まで出迎えに行こうとすると、何故か不安げな表情のあかりと雅史まで着いてきた。  ったく、二人とも心配性だな。  「やっほ〜浩之。来てあげたわよ♪」  「……」  「こんにちは、藤田さん」  「浩之さ〜ん、こんにちはです」  「喝〜〜〜っ」  「やあ、君が藤田君だね?」  ……約2名、呼んだ覚えのない顔があった。  「浩之ちゃん、さっきの電話の相手って……」  「そう、来栖川家」  「ちなみに、電話に出たのは姉さんよ」  何故か説明口調で綾香が答える。  「……」  相変わらず無口な先輩は黙ってうなずいてるし。  「それはそうと、こんな人数台所には入らないと思うけど……」  さすが雅史、いい所に気づいた。  「というわけだ。あんたら帰ってくれ」  「そういうことらしいぞ。残念だったな、マルチ、セリオ」  「違う!あんたとセバスだ!っていうか、あんた誰?」  「おや、これは申し遅れ私は来栖ぐっ!!!……」  おっさんがいきなり床に突っ伏した。  「この人、喋り出すと長いのよ」  何事もなかったかのように綾香が言う。  「……大丈夫なのか?このおっさん」  「何、心配ご無用。長瀬家の人間はこのくらいのことでは死んだりしません」  何故かセバスが答える。  ……っていうか、普通の人間なら死ぬのか?  「…………」  先輩はセバスを見ると静かに手を振った。  「そ、そんなご無体な……」  「はいはい、いいからさっさと主任を連れて帰りなさい」  「お嬢さま〜〜〜」  あわれ、セバスは見知らぬおっさんと共に綾香に追い出されたのだった。  「すごいね」  「うん」  その様子をあかりと雅史があっけにとられて見ている。  まあ、無理もないか。  「さて、これで邪魔者はいなくなったわ。ところで浩之、用ってなんなの?」  とりあえず、これで本題に移ることが出来そうだ。  「ああ、まずはこれを見てくれ」  おれは先輩、綾香、マルチ、セリオを台所へと案内した。  「こ、これは、ラルヴァの仕業ね!」  真っ二つに割れたテーブルを見て綾香が叫ぶ。  「違うよ」  雅史の冷静なツッコミ。  「…………」  「え?見せたいのはこの机なのですか?って、いやそうじゃないんだ、先輩。本当に見せたいのはあれさ」  そして俺は問題の卵を指差す。  「卵ですね」  「……にしても、大きいわね」  「…………」  「浩之さん、卵を飼うんですか?」  「飼ってどうするよ。いや、この卵がなかなか割れねーんだ。なんたって、かわりにテーブルが割れたくらいだからな」  「ふ〜ん」  綾香が軽くその卵を叩く。  「……これって本当に卵?」  「いや、次第にその可能性が薄れてきたところだ。というわけでセリオ」  「はい、なんでしょう?」  「この卵の中身をスキャンしてくれ」  「残念ながら、そのような機能は装備しておりません」  「なに?!そうなのか!」  「普通、メイドロボにそんな機能必要ないと思うよ」  「そうだよ、浩之ちゃん」  「で、実際のとこどうなんだ、綾香」  「本当にないわよ、そんな機能」  う〜む、残念。  「じゃあ、先輩ライブラでこの卵を調べてくれ」  「…………」  「え?残念ですが今日はMP切れで魔法は使えません?……誰かエーテルか祈りの指輪もってるか?なんだったらエリクサーで もいいぞ」  「……浩之ちゃん、誰も持ってるわけないよそんなの」  ちっ、しょーがねーなー。  「こうなったら実力行使しかねーか。というわけで綾香、思いっきり卵を割ってくれ」  「……どうなっても知らないわよ?」  「構わん」  「わかったわ」  そういうと綾香は卵の背後に立ち、精神を集中し始めた。  「あ、あの〜」  「ん、どうしたマルチ?」  「はい。私は一体何をすればいいのでしょう」  「そうだな。リビングの掃除でもしててくれ」  「はい♪」  「あ、じゃあ私も手伝うよ」  嬉しそうにリビングに去っていくマルチとあかり。  再び綾香の方へ視線を戻すと、ものすごい気迫が俺を襲った。  これはもしかしたら………!!  「てい!!!」  気合の乗った掛け声と共に綾香の拳が卵に振り下ろされる。  ズドン!!  大音響が台所に響きわたる。  そしてついに卵は……あれ?卵がねえ!  「おい、綾香!卵はどこいった?」  「は、ははは……」  綾香は引きつった笑いを浮かべて下を指差している。  下?  おれは慌てて綾香の元に行った。  そこにはなんと、床を突き破った卵があった。  「すげえ……」  これほどの破壊力を秘めた綾香の拳と、その衝撃にもひび一つ入っていない卵に俺は感嘆の言葉を発した。  「しかし、この床どうするか……」  「あ、それは私たちがなんとかするわ」  おお、さすが来栖川グループのご令嬢、太っ腹だ。  「じゃあ、ちょっとこの部屋から出てってね♪」  「え?」  俺と雅史は問答無用で台所から追い出された。  「何やるんだ?あいつら」  「さあ」  とりあえず、綾香たちが何をやるかが気になったが、見てはいけない気がしたのでリビングの様子を見に行くことにした。  「よ、頑張ってるか?」  「あ、浩之さん。こっちもちょうど終わるとこなんですよ〜」  「うん。だからもうちょっと待っててね」  「ああ、じゃあ頑張れよ」  う〜む、掃除中なら仕方ない、自分の部屋にでも戻るか。  「雅史、俺の部屋に行くぞ」  「うん、そうだね」  「あ、浩之〜。終わったわよ」  俺の部屋に行こうとした俺たちを綾香が呼びとめた。  「お、もういいのか?」  「うん」  「なら行くか」  そして、再び台所に入った俺たちは……  「穴、ふさがってる……」  「テーブルも直ってるね」  「テーブルの方はサービスでやってあげたわ」  「おう、サンキュー……って、どうやってやったんだ?!」  「………」  「え、企業秘密です、って先輩……」  来栖川グループ恐るべしといったところか。  「ねえ、ところでこの卵どうするの?」  「……そうだな、もう諦めるか」  「捨てるの?」  「いや、元あった場所に戻す」  「うん、そうだね」  「そう、なら私たちはもう帰るわね」  「ああ。わざわざすまなかったな」  「いいって。私も貴重な体験できたしね」  「………」  「え、お役にたてずにすみません、って?いいよ、先輩が謝ることない」  「次はパワーアップしておきます」  「いや、セリオはそれ以上パワーアップしなくていいからマルチの方に回してやってくれ」  「了解しました」  「じゃあ、マルチ〜、帰るわよ〜」  リビングの方からマルチがやってくる。  「お掃除終わりました〜」  「おお、サンキュー」  軽くマルチの頭を撫でてやる。  「えへへ」  「さ、帰るわよ」  「あ、はい」  「じゃあね、浩之」  「………」  「藤田さん、それでは」  「浩之さん〜、おなごりおしゅうございます〜」  ……マルチ、いつからそんなキャラに。  「おう、それじゃ気をつけて帰れよ〜」  玄関で4人を見送った後、ふと気づいた。  「そういや、あかりは?」  「リビングでテレビ見てるよ」  「……何やってんだ、あいつは」  「しょうがないよ、あかりちゃんはこの時間はいつも『くま太郎』見てるから」  やれやれ、あかりのくま好きにも困ったもんだ。   そして、『くま太郎』が終わった後、俺は卵を元あった場所に戻しに行くことにした。  その途中。  「ところで浩之ちゃん、なんでその卵らしきものを食べようとしたの?」  どうやらあかりの中では既に卵とは認められていないらしい。  「いや、うまそうだったから」  俺は即答していた。  「う〜ん、そんなにおいしそうかな〜」  おれが抱える卵を見つめて、頭をひねっている。  「なあ、雅史もそう思うだろ?」  「僕はただ不思議な卵だなって思っただけだよ」  爽やかな笑顔で雅史が言う。  「そうか?おれにはうまそうに見えるんだけどな〜。にしても、食えなくて残念だ」  そんなやりとりをしているうちに公園に着いた。  人もまばらになった公園で、あのベンチを目指す。  そして、  「な……増えてる?!」  「うん、そうだね」  「え?え?え?」  目の前にあるベンチの上には、俺が抱える卵と同じものだと思われる物体が2つほど置いてあった。  ご丁寧にも、真ん中にもう一つ入るくらいのスペースを空けて。  俺がそこに卵を置くと、やはりすっぽりとそこに納まった。  決定。もはやあれは卵じゃねー。  今では、公園にいた人たちがこれをなかったことにしている理由がはっきりわかった。  多分、みんな似たような経験したんだろーな。  「……さて、帰るか」  「うん、そうだね」  「あ、浩之ちゃん待ってよ〜」  こうして俺たちは不思議な感触にとらわれながら家へと帰った。  次の日、学校帰りに公園に寄ってみると、卵もどきはまだベンチの上に堂々と居座っていた。  また一つに減ってたが、もう驚かねー。  今度は不思議とうまそうだとは思わなかった。  俺は、ベンチに近づくことなくその場を後にした。  その後、雅史やあかりとの間でもあの卵じみたものの話題は出てこなくなった。  風の噂によると、公園のベンチでは、あの卵らしき物体が今も誰かに拾われるのを待ちつづけているらしい。
─終劇─