しんしんと降り積もる雪の中。 傘もささずに佇む少女が一人。 少女は、ただ空を見上げていた。 「真琴!ここにいたのか……」 息を切らせて少女の元に駆け寄る少年。 しかし、少女の目は少年の姿をとらえても何の反応も示さない。 まるで、全てを忘れてしまったかのように。 「さあ、帰るぞ。お前の居場所は俺が作ってやる。だから、何も心配するな」 少女の肩を両手で抱き、瞳をのぞいてしっかりと言い聞かせる少年。 たとえそれが少女の耳に届かなくても。 「あ…あう……」 何かを言いかけようとする少女。 「ん?どうした真琴」 しかし、その囁きは言葉にならず、降り注ぐ雪が流してしまう。 「そうか、寒いんだな。早く家に帰ろうぜ。秋子さんが温かい食事を用意して待ってるってさ。それとも、途中で肉まんでも 買ってくか?今日は俺が特別におごってやるよ」 流れていく言葉を引きとめたくて。 少年は少女に語り続ける。 「家では名雪もお前を待ってるんだぞ。新しい漫画借りてきたって言ってたな。そうそう、お菓子もいっぱいあったから食べ ていいからな」 それでも少女の瞳は少年の言葉をとらえずに、ただ空を見上げている。 ひたすら何かを待つように。 「真琴……何で、何で空ばっかり見てるんだよ。空には何かあるのか?」 少年は、少女と同じ視点に立ち、空を見上げてみる。 そこで見えたものは、降り注ぐ雪と、それを運ぶ低く重たい空一面の雲。 そして、 「そうか。真琴は雲の向こう側を見てるんだな……」 雲が去った後に訪れる、春。 刹那、少女の顔に微笑みが浮かんだような気がした。 「真琴!」 少年は少女をきつく抱きしめる。 「そうだよな。春はお前が一番好きな季節だもんな。だから、次の春も俺たちと一緒にいよう。その次の春も、またその次の春 も……ずっとずっと一緒だ」 少女から伝わる確かな鼓動と温もり。 「お前は今生きてるんだ。この鼓動も、この温もりも、全て真琴のものなんだ。これが幻なんて、俺は信じない。真琴が消える なんて、俺は絶対に認めない!!」 少女を抱きしめながら、強く願う少年。 その存在を失うのが恐くて。 離せばすぐに消えてしまう気がして。 強く、きつく抱きしめ続けた。 鼓動
<終幕>