東鳩・愛の劇場
第一幕 「お嬢様は……」
浩之:先輩、用って一体何なんですか?え?新しい薬ができました?ははっ、そうなんすか。で、どんな薬なんです?透明に
なる薬?先輩、何だってそんな物を…え?一度透明になってみたかった?そりゃ先輩らしいといえばらしいけど…。失
敗とかしないでしょうね。え?大丈夫です、ちゃんと部員で実験しましたから?そうですか、それならいいんすけど…
…って、部員って確か…あっ、先輩もう飲んじゃうんですか?す、すごい。ほんとに消えてる……って何で服まで見え
なくなるんだ?これってひょっとして失敗なんじゃ……ああ、先輩が「成功です」と言ってるのがわかる。わかりはす
るが、せんぱ〜〜〜い!どこなんだ〜〜〜〜!
あかり:浩之ちゃん見〜つけた♪
浩之:おっ、あかり。今日も犬ちっくだな。
あかり:わん♪
浩之:……あかり、とうとう本物の犬になってしまったのか……
あかり:違うよ〜、あかりギャグだよ〜。
浩之:…ぐりぐりぐり…
あかり:いたいよ〜浩之ちゃん。もう、やめてよ〜。
浩之:おっと、そうだった。あかりと戯れてる場合じゃなかったんだ。
あかり:どうしたの?
浩之:実は……ところでお前、どうして俺がここにいるのわかったんだ?
あかり:志保に聞いたの。
浩之:はぁ〜!?なんであいつが知ってんだ?
あかり:なんでも、今年から志保ちゃん情報は正確かつ迅速をモットーにするみたいだよ。
浩之:またどこぞのニュースみたいなことを…。どうせセリオに電話でもしたんだろうよ。
あかり:そうかもね。それより浩之ちゃん、一緒に帰ろ?
浩之:ああ、いいぜ。………あれ?
あかり:どうしたの?
浩之:いや、何か忘れてるような。
あかり:多分、気のせいだよ。
浩之:それもそうだな。
第二幕 「エクストリーム・アタック」
あかり:ねぇ、浩之ちゃん。
浩之:ん、何だ?
あかり:もしもだよ、もしも私がくまになっちゃたら、浩之ちゃんどうする?
浩之:はぁ!?
あかり:それで、私は浩之ちゃんのことが分からなくなってて、浩之ちゃんに襲いかかるの。でも、浩之ちゃんはそのくまが私だ
って知ってて……
浩之:安心しろ、あかり。犬ならともかく、お前は熊になんかなんねーよ。
あかり:だから、もしもだよ。もしも……
浩之:食う。
あかり:え?
浩之:前から一度「熊の手」ってやつを食ってみたかったんだ。
あかり:え?え?でも、そのくま、私なんだよ?
浩之:俺に食べられるんだ、お前も本望だろ?さ、そういうわけで早く熊になってしまえ〜。
あかり:……分かった。もうやめる。
浩之:うむ。分かればよろしい。
あかり:でも、ハエは大きくなるみたいだね。
浩之:はぁ!?また何言い出す………うおっ!なんだありゃ?
あかり:だから、ハエでしょ。
浩之:バカ!あんなどデカいハエがいるわけねぇーだろ!たしかどっかで見たことがあるぞ。え〜と、確か………そうだ!
葵:先輩、危ない!!
浩之:え!?う、うわぁっと。ふ〜〜う、間一髪かわしたけど……葵ちゃん、どうしてここに?
葵:先輩、次、来ます!
浩之:え?おおっとー。何なんだ、一体?
綾香:まったく、危なっかしいわね〜。
坂下:まったくだな。
浩之:綾香!それに坂下まで……どうなってるんだ?あれ?そういえばあかりは?
綾香:彼女はセリオに任せておいたわ。
浩之:そうか。ところで、いま葵ちゃんが戦ってるあいつは……
綾香:あら?気づいたんじゃなかったの?
浩之:ああ、前に先輩にみせてもらった本に載ってた。確か………ベルゼブブ。
綾香:そう。悪魔のなかでもかなり上位に位置する悪魔よ。
浩之:悪魔………ってことはやっぱり……
綾香:多分、そうでしょうね。いえ、それ以外考えられないわ。
坂下:こら〜、綾香〜。お前もちょっとは手伝え〜。
綾香:ごめ〜ん。ちょっと待って〜。で、あなたに聞きたいのは姉さんの居場所。セリオがつかんだ足跡では、あなたと最後に
会ってるわね。そこから先がセリオにもわからないらしいのよ。何か心当たりは?
浩之:消えた………
綾香:へ!?
浩之:そうだ、先輩、消えてるんだ!
第三幕 「ラジカル・マジカル・シニカル」
浩之:綾香、後は頼んだ!
綾香:ちょっと、どこいくのよ。
浩之:先輩捜してくる。
坂下:綾香〜、藤田なんかほっといて、さっさとこっちを手伝え〜。
葵:綾香さ〜ん、私、もう限界です。
綾香:はいはい、解ったわよ。……大丈夫よね、あいつなら。
浩之:先輩っ、ゴメンっ、て、これは魔法陣?しかもかなり本格的な……い、いかん。先輩を本気で怒らせたみたいだ。せん
ぱ〜い、どこですか〜。
志保:あ、ヒロ〜。
浩之:ん、その声は志保か。
志保:そうよ。こんなラブリーな声の持ち主は志保ちゃん以外にいないでしょうが。
浩之:はいはい。それより、お前、隠れてないで出てこいよ。
志保:ちょっと〜、私は隠れてなんかいないわよ。
浩之:はぁ?じゃあ、どこにいるんだよ。
志保:はぁ?あんたこそ何言ってるのよ。ちゃ〜んとあんたの目の前にいるでしょうが、目の前に。
浩之:まぁ、声は確かに近くから聞こえるけどな。でも俺の前にはだ〜れもいないぞ。
志保:あ〜〜〜、ヒ、ヒロ、今あんたどさくさにまぎれて私にキ、キ、キスしようとしたわね〜〜〜!
浩之:はぁ!?
志保:ふぅ、私って罪な女ね。
浩之:もう、お前につきあってられ……ん?あれは確か先輩が作った……全部なくなってる……志保、まさか、お前があれを?
志保:あー、あれ?そうよ、さっき全部飲んじゃった。
浩之:なんでそんな事を……っちゅうか何でお前がここにいるんだ?
志保:え、それは……いや、ほら、ヒロたちっていつもこんな場所で何やってるのかな〜って思ってさ。
浩之:ど〜も怪しい。ま、それはいいとして、ちょっと俺についてこい。
志保:え?どっか行くの?カラオケ?それともゲーセン?
浩之:いいから来い。
志保:わかったわよ、って、ここトイレじゃない!
浩之:さあ、入るんだ。
志保:や〜よ。なんで私が男子トイレに入んなくちゃいけないのよ。
浩之:入れば分かる。
志保:絶対ヤダ。
浩之:分かった。じゃあ、女子トイレに入って鏡を見てみろ。
志保:なんだ、そんなこと。鏡を見ればいいのね…………………………きゃ〜〜〜〜ヒロ〜〜〜〜〜ちょっと来て〜〜〜〜
〜〜〜〜〜〜!!!!!!!
浩之:相変わらず騒々しい奴だな。ま、つまり、今のお前は透明人間ってわけだ。
志保:うそ。
浩之:お前の姿が鏡に映ってないのが何よりの証拠だろ。「百聞は一見にしかず」ってゆうからな。
志保:ははっ、ほんとだ。
浩之:う〜む、今のお前の顔が見れないのが少し残念だ。
志保:見られたくないわよ、こんな顔!
浩之:じゃあ、俺は出るぞ。こんな所から出てくるの誰かに見られでもしたら、って、え、琴音ちゃん?
琴音:わ、私、藤田さんがそんな人だなんて知りませんでした。失礼します!
浩之:あ、待って琴音ちゃん、琴音ちゃ〜ん!
第4幕 「FLY ME TO THE MOON」
浩之:はぁ、はぁ、琴音ちゃん、やっと、追いついた。
琴音:藤田さん……
浩之:あれは誤解なんだ。たまたま女子トイレから志保の叫び声が聞こえてきたからとっさに……
琴音:そう…そうですよね。藤田さんは女子トイレに平気で入るような変態じゃありませんよね。ああ、よかった。
浩之:そういや琴音ちゃん、足速いね。陸上かなんかやってたの?
琴音:いいえ。私、運動は苦手ですから。
浩之:え?俺は登校ダッシュで鍛えてるから少しは足に自信あるんだぜ。それなのに、すぐには追いつけないなんて……
琴音:多分、これのせいです。えいっ!
浩之:う、浮いてる。
琴音:はい。私、ちょっとの距離なら飛べるようになったんです。でも……
浩之:でも?
琴音:この前、飛んでいるところをたまたま通りがかったセリオさんに撃墜されてしまいました。
浩之:撃墜って……
琴音:どうやら来栖川のメイドロボは非科学的な存在を認めたくないみたいです。でも、私負けません!
浩之:非科学的って、あそこのお嬢様が一番……ああっ!
琴音:どうしました?
浩之:こ、琴音ちゃん、透視とかできる?
琴音:え?透視ですか?試したことがないので分かりません。
浩之:じゃあさ、人には見えないものが見えたりする?
琴音:そりゃあもう。
浩之:よっしゃ決まった!
琴音:あの、何かなさるんですか?
浩之:ああ。先輩を探すんだ。
琴音:先輩?ああ来栖川さんのことですね。来栖川さんどうかなさったんですか?
浩之:消えたんだ。
琴音:え?もしかして、さらわれたとか?
浩之:違う。そうじゃないんだ。消えたんだよ、服ごと。いわゆる透明人間になったんだ。先輩と、ついでに志保も。
琴音:え、二人もですか?
浩之:まあ、志保のほうは黙らせるのが不可能なくらいだから居場所くらいすぐわかる。問題は先輩だ。もともと無口な上に
極端に声が小さい。だから琴音ちゃん、お願いだから先輩探すの手伝ってくれないか。
琴音:わかりました。他ならぬ藤田さんの頼みですから。
浩之:ありがとう、琴音ちゃん。
マルチ:ひ〜ろ〜ゆ〜きさ〜〜ん!!
浩之:マルチ、モップも持たずにどうした。
マルチ:た、た、た、大変なんです〜。とてもお掃除している場合じゃありません〜。
浩之:なに!
マルチ:とにかく、急いで来てください〜。
浩之:お、おい、マルチ!仕方がない、行こう、琴音ちゃん。
琴音:はい!
マルチ:浩之さ〜ん。こっちです〜。
浩之:今行く!ん、あれは……綾香!葵ちゃん、それに坂下まで……おい、綾香、一体どうしたんだ!
綾香:ひ、浩之……後は…おねが………い。
浩之:お、おい、綾香、しっかりしろ、おい!……駄目だ気を失ってる。これもあのベルゼブブってやつの仕業なのか!
マルチ:いえ、ベルゼブブは綾香お嬢様が3秒で撃退してしまいました。
浩之:秒殺…。
マルチ:でも、その後にあらわれた……はわぁ〜、ひ、ひろゆきさん。う、うしろに……
浩之:ん?後ろ?…………くま〜〜〜〜!?
琴音:熊ですね。
浩之:綾香たちはコイツに?
マルチ:そうなんです。私は何もお手伝いすることが出来なくて、せめてセリオさんを呼ぼうと思ったんですけど、連絡が取れ
ないんです〜。
浩之:綾香のヤロー、厄介なもん頼みやがって。こんなでっけー熊、普通の高校生の俺にどうしろっていうんだ!
琴音:諦めちゃだめです、藤田さん!
浩之:琴音ちゃん……
マルチ:そうですよ浩之さん。諦めるなんて浩之さんらしくもないです。
浩之:マルチ……
琴音:さあ、3人で力を合わせて一緒に戦いましょう!
浩之:おう!
マルチ:はい!
第5幕 「対決?」
琴音:それでは、私がくまの動きを止めますから、その間に藤田さんは右に、マルチちゃんは左に回り込んでください。
浩之:ん?ちょっと待って琴音ちゃん。あの熊の耳、なんか変じゃないか?
琴音:え?……そう言えばそうですね。でも、ちゃんとした耳もありますよ。
浩之:だよな。
マルチ:なんだかバッタさんの触覚みたいですね。
浩之:触覚……そうか!でかした、マルチ。
マルチ:ほめられてしまいました〜。
浩之:理緒ちゃん!理緒ちゃんなんだろ!
琴音:あっ、動きが止まりました。
マルチ:あれ、どうしたんでしょう?急に後ろを向いてしまわれました。
琴音:あ、逃げた。
マルチ:あう〜。転んでしまいました。痛そうです〜。
浩之:あの転び方……やっぱり理緒ちゃんだ。ってことは綾香たち、理緒ちゃんにやられたってことになるな。………このこと
は黙っておいたほうがいいか。それじゃ、追いかけるぞ!
琴音:え、でも……
浩之:理緒ちゃんがあんな姿になったのも、多分、先輩が何かしたからだと思うんだ。
琴音:可能性は否定出来ませんね。
浩之:マルチ!
マルチ:はい。なんでしょうか。
浩之:おまえはここに残って綾香たちを看病しててくれ。
マルチ:はい!わかりました!
浩之:じゃあ行こうか、琴音ちゃん。
琴音:はい。
レミィ:Stop!
浩之:その声は……レミィ!
レミィ:ハァ〜イ、ヒロユキ。私をおいて行こうとするなんて水臭いデ〜ス。
浩之:水臭いって……レミィ、いつからいたんだ?それにその手に持ってるものは……
レミィ:ああ、これ?これは弓道部の部室から持ってきたヨ。
浩之:いや、そういうことじゃなくて。なんでそんなもん持ってんだ?
レミィ:それはモチロン、huntingのためデ〜ス。
浩之:ハンティングって……まさか、あの熊を狩るつもりだったのか!?
レミィ:That’s right!!
浩之:ふ〜、危ないとこだった。レミィ、いいか、あの熊はな……
琴音:ふ、藤田さん…
浩之:うん、なんだい琴音ちゃん?
琴音:く、くまが、くまが見えなくなってしまいました!
浩之:え!まさか消えたのか!
琴音:いえ。消えたとかそんな感じじゃありませんでした。
浩之:とにかく、熊が消えたとこ辺りまで行ってみよう。もしかしたら何かわかるかもしれない。
琴音:はい。
浩之:レミィ、お前も来い。
レミィ:私もデスか?
浩之:そうだ。行きながら色々話してやる。
レミィ:ワカリマシタ〜。それではLet’s Go!
レミィ:Unbelievable!!それじゃあ、あのクマはリオだったのデスか?
浩之:ああ、間違いない。
レミィ:あ〜あ、せっかくのいい獲物だったノニ。
浩之:お前な……ん?あれは…理緒ちゃん!
レミィ:Oh!リオ、大丈夫?
琴音:あの、大丈夫ですか?
理緒:あ…藤田君。それに宮内さんとそれから……
琴音:あ、琴音です。姫川琴音。どうも、はじめまして。
理緒:こちらこそ。でも、どうして藤田君がここに?って、その前にここどこなの?
浩之:理緒ちゃん、もしかして覚えてないの?
理緒:覚えてない?そういえば、私なんでこんな所にいるんだろ。
浩之:じゃあさ、ちょっと学校が終わってからのこと話してくれる?
理緒:うん。学校が終わって私はいつものように急いでバイトにむかったの。あ、そうだその途中に道で何か光ったから、なん
だろうって思って見にいったの。ははっ、悲しい習性よね。それで、その光るものを手に取って……あれ?あれあれ?
浩之:そこから記憶がないわけだ。で、その光るものって何だったの?
理緒:ちょっと待って。多分ポケットに入れてると思うから……あった。はい。
浩之:これは……
レミィ:キーホルダーだね。
琴音:しかもくまの。
浩之:あかりのだ……
理緒:え?
浩之:あかりのバッグに付いてたやつだ!
第6幕 「境界 -borderline-」
浩之:一体、どういうことだ?あかりに何かあったのか?
理緒:藤田君……こ、こんなのもポケットの中に……
浩之:見せて。ん?なんだか見覚えが……そうだ、確か先輩と一緒に作った人形だ!
理緒:私、こんな人形知らない……
浩之:くそっ、何が起こってるんだ!先輩は消えるは、ベルゼブブは出てくるは、理緒ちゃんは巨大熊に変身するは、あかりは
見つからない……そうだ、あかりはセリオと一緒のはずだ。なら、別に心配ないか。
琴音:でも、マルチちゃんはセリオさんと交信できなかったって言ってませんでした?
浩之:……………………しまったぁ〜〜〜!!!
レミィ:Wow!ヒロユキ、落ち着いて。「心頭滅却すれば火もまた涼し」ネ。まだアカリがさらわれて怪しいクスリを投薬され
てるとか、その上誘拐犯との交渉が決裂して海の底に沈んでるって決まったわけじゃないヨ。
理緒:宮内さん、フォローになってない。
琴音:そうですよ。藤田さん、神岸さんのことは忘れて楽しく暮らしましょうよ、ね?
理緒:姫川さんまで……
浩之:ちっくしょ〜、みんな嫌いだ〜〜!
レミィ:あ、ヒロユキ、どこに行くんデスカ〜!
琴音:待ってください、藤田さん!
理緒:私は悪くないよね?
浩之:まったく、なんだよみんなして。あかりを何だと思ってるんだ?あかりは俺の………俺の?俺の何なんだ?
智子:どないしたん?そない難しげな顔して。
浩之:あ、委員長。
智子:あのな。何べんも言うけど、うちはもう学級委員ちゃうねんで。
浩之:それでも委員長はやっぱり委員長だ。それとも、智子って呼んで欲しいのか?だったら……
智子:もうええわ。で、何か考え事しとったんとちゃう?うちでよかったら相談にのってやってもええで。
浩之:実は、深夜の通販番組で欲しい商品が……
智子:帰る。
浩之:いや、本当は今日の弁当はトンカツかハンバーグどっちにしようかと……
智子:帰る。
浩之:なら……
智子:いい加減にしい!人がせっかく話きいたるゆうのに、なんやのんその態度。今度ふざけたらほんまに帰るさかいな。
浩之:……あかりのことだよ。
智子:え?神岸さんとなんかあったん?
浩之:いや、何もない。なあ、委員長。俺とあかりって委員長の目から見てどう見える?
智子:う〜ん、そうやな。無茶苦茶仲ええけど、まだどっかで線引いとる感じがするな。あんたのほうが特に。
浩之:俺って嫌なやつかな。
智子:嫌なやつじゃない。良いやつかどうかはわからんけどな。
浩之:恐いんだ、俺。あいつの気持ちを受け止める自信がないんだ。あいつを受け入れたら、今までみたいな関係に戻れなく
なる気がして……
智子:戻らなくてもええやん。
浩之:え?
智子:あんたが今の関係を壊したくない気持ちもわからんではない。でも、それでええんか?神岸さんも今のままがええ思う
とるんか?
浩之:あかりの……気持ち。
智子:そうや。神岸さん、多分待ってるはずやで。あの娘、あんたが傷つくようなこと絶対せえへんはずや。自分が傷つく方
を選んでるはずなんや。そして、傷つけてるのはあんたや。
浩之:俺が、あかりを?
智子:まったく。ほら、さっさと行きいな。
浩之:え?
智子:神岸さんのとこや。
浩之:でも、居場所が……ん?あれはセリオ!だれか抱えて……あかりだ!
智子:さっさと追う。
浩之:サンキュ、委員長。
智子:まったく、世話の焼けるカップルや。
浩之:あかり〜、くそっ、セリオのやつどうして逃げるんだ?あれ?学校の中に入っていったぞ?どういうつもりだ。うん?あ
の玄関の前に立っているのは……やっぱり先輩だ!先輩、よかった、元に戻ったんですね。え?時間切れです?それはよ
かった。ところで先輩、セリオとあかり見ませんでした?校舎の中に入っていかれました?じゃあ、俺もちょっと………
って先輩、袖引っ張んないでくださいよ。え?罠です、行ってはいけません?でも、行かないとあかりが……お願いです
から手を離してくださいよ。
芹香:離しません。
浩之:先輩……
芹香:離したくありません。
浩之:どうして……ですか。
芹香:あなたを、失いたくないから。
最終幕 「笑顔の行方」
浩之:…………先輩。先輩の気持ちは嬉しいよ。でも、受け取ることはできない。自分の気持ち、俺の本当の気持ちに気づいち
まったから……
芹香:………
浩之:俺って最低だよな。あいつの気持ちなんか考えもせず、自分一人で納得して、その結果先輩まで傷つけるようなことにな
っちまって………ははっ、情けなさすぎて涙も出やしないぜ。
芹香:………
浩之:許せないよな、俺なんか。先輩には俺を呪う権利があるし、おれはそれを拒んだりしない。……………許してくれるの
か?こんな俺を?
芹香:あなたの悲しむ顔は見たくありません。
浩之:先輩…
芹香:さあ、早く行ってください。
浩之:すみません、先輩。
芹香:神岸さんによろしく。
浩之:わかった。待ってろ、あかり!
綾香:あ、いたいた、姉さんセリオ……姉さん?
芹香:………
綾香:………そう。あいつにふられたのね。いいわ、姉さん、ちょっと待ってて。
セバス:お嬢様〜〜、どうなさいまし、ハァッ、グフッ……
綾香:これでよし、と。姉さん、一緒に帰りましょう?
芹香:………
綾香:分かったわ。ここであいつが出てくるのを待つとしますか。姉さんを泣かせたやつに必殺の一撃をお見舞いしなくちゃ
ね。え?死んでしまうからやめてください?大丈夫よちゃんと急所ははずすから。それにしても姉さん、人をなんだと
思ってるの?
浩之:あかり〜〜〜どこだ〜〜〜。お前に話したいことがあるんだ。くそっ、セリオのやつあかりをどこに連れていったんだ?
あかり:浩之ちゃ〜〜ん!
浩之:あの声は……屋上か!
あかり:ちょっと、セリオちゃん離してよ、離してったら!
セリオ:声紋チェック……該当データなし。命令の受諾を拒否します。
あかり:じゃあ、どこに行くの?
セリオ:私は綾香様の命令を遂行しているだけです。
あかり:綾香さんの命令って……私を守れってこと?
セリオ:はい。今現在、あなたを追う存在が確認されております。その者からあなたを守ることがただ今の私の最優先事項です。
あかり:追いかけてる?ねえ、それって誰か分かる。
セリオ:お答えできません。
あかり:浩之ちゃ〜〜ん!
セリオ:!!
あかり:止まった。やっぱり……浩之ちゃんなんだね?
浩之:あかり!
あかり:浩之ちゃん!
浩之:セリオ!どういうことだ!はやくあかりを離せ!
セリオ:声紋チェック……該当データなし。命令の受諾を拒否します。
浩之:な…
あかり:待って、浩之ちゃん。セリオちゃん、お願い、私を離して。私たち友達でしょ、ね?
セリオ:………了解しました。
あかり:ありがとう、セリオちゃん。
浩之:一体、どういうことだ?
あかり:わたしたちが命令口調だからいけなかったの。セリオちゃんもマルチちゃんを作った人たちが作ったんだよね?だっ
たら、きっと友達の頼みは聞いてくれるって思ったの。
浩之:そうか。そうだよな。すまなかったな、セリオ。
セリオ:問題ありません。
浩之:ははっ、お前っていいやつだな。ん?下にいるのは先輩と……綾香?それにむこうでのびてんのはセバスチャンか?
おい、セリオ。なんか綾香が呼んでるぞ。
セリオ:了解しました。それでは失礼します。
浩之:っておい、飛び降りるんかい。さすがは来栖川の最新型だけのことはあるな。
あかり:浩之ちゃん……
浩之:ん?
あかり:追いかけてきてくれたんだ。
浩之:ああ、まあな。
あかり:私、嬉しかった。私を追いかけてるのが浩之ちゃんだってわかったとき、すっごく嬉しかった。
浩之:心配だったからな。
あかり:私、決めたの。浩之ちゃんが私を追いかけてきてくれたら言おうって、決めたの。私……
浩之:待て。
あかり:え?
浩之:俺の方から先に言わせてくれないか?
あかり:浩之ちゃん……から?
浩之:ああ。俺は今まで俺とお前の関係を心地いいと思ってた。そして、お前もそう思ってると勝手に思い込んでた。お前の気
持ちにも前から気づいてたさ。でも、それを受け止める自信が俺にはなかった。いや、恐かったんだ、この心地よい関係
が崩れそうで。お前がそのことを口にしないのも、この関係を続けていきたいからだとばかり思ってた。でも、違ってた
んだな。
あかり:浩之ちゃん……
浩之:お前は、俺がこの関係を続けたがってることに気づいていて、だから口に出さないだけだったんだ。馬鹿だよ、俺は。委
員長に言われるまで、こんな簡単なことにも気づかないなんて。お前が隣から消えて、はじめてお前の大切さが身に染み
たんだ。もう、こんな思いはしたくない。そして、お前にさせることも。だから、今はっきりさせる。今まで待たせてす
まなかった。あかり……俺はお前が好きだ。世界中の誰よりお前を愛してる!
あかり:浩之ちゃん……私も、私も浩之ちゃんが好き!
浩之:あかり!
あかり:浩之ちゃん!
綾香:あらあら、お熱いこと。ん、姉さん何してるの?
芹香:………
綾香:って、それ魔法陣じゃない!今度は何呼ぶつもりなの?え?ドッペンゲルガー!?もう、あいつ許したんじゃなかった
の?やっぱり許せない?……あのカップルの前途は多難のようね。ま、障害が多い方が恋は燃えるっていうし、いいか。
【HAPPY END?】