「で?実際どうなのよ」 と、いきなり僕に問い詰めてくるのはクラスメイトの内藤理沙。 「別になにも隠してないって」 僕は素知らぬふりをして自分の席を立とうとする。 そう、ここは僕の通う高校の僕の教室で、今は放課後だったりする。 「しらばっくれても駄目よ。あんたが“夜の魔法”を手に入れたってもっぱらの噂なんだから」 僕の行く手を遮るようにして立ちはだから内藤。 「“夜の魔法”?なんだよそれは」 そんな噂は聞いたことないんだな、これが。 まあ、僕がその手の話題に疎いだけかもしれないけど。 「佐川君、あなたひょっとして“夜の魔法”知らないの?」 意外そうな顔をして内藤が僕を見る。 「うん、知らない。じゃあそういうことで!」 僕は華麗(?)なステップで内藤をかわし、教室を後にしようとした。 「ちょっと!まだ話は終わってないわよ!」 と、内藤の言葉が聞こえた時には、既に内藤は僕の目の前に立っていた。 やはり運動神経の差か…… 「とりあえず、人の話は最後まで聞きなさいよ」 「ハイ…」 内藤からの逃亡を諦めた僕は、しぶしぶまた自分の席へと戻った。 「それで、佐川君は本当に“夜の魔法”を知らないの?」 「知ってるもなにも、初耳だよ」 「ウソ……」 「ホント」 すると、何故か内藤は困ったような顔をした。 「……わかった、夜確かめる」 と、謎の言葉を残して内藤は去っていった。 なんだったんだあいつは? 「ふぅ」 家についた僕は無意識のうちにため息をついていた。 ちなみに、今、僕は一人暮らしをしている。 父親はいわゆる商社マンで昔から単身赴任で各地を回っている。 僕が小学生の頃はそれでも結構二人で過ごしたりしたけど、中学生になった頃から仕事に本腰をいれはじめたらしく、ほとんど 家に帰ってこなくなった。 そして母親は僕が物心ついた時には既にいなかった。 他界したのか別れたのかは分からないし、今更聞こうとも思わない。 ただ、家に母親の遺影や位牌がないので、僕は別れたのだろうと思ってる。 「さてと……」 とりあえず自分の部屋まで行き、着替えて、食事の支度をする。 一人暮しが長いせいか、僕は一通りの家事はこなせる。 意外と思われるかもしれないけど、料理は結構得意だったりするんだな。 というわけで、テレビを見ながら食事を済ませ、音楽を聴きながら本を読んだりして時間をつぶす。 そして11時。僕はパソコンの電源を入れる。 実は、僕は今あるゲームにはまっているんだ。 そのゲームは『魔法騎士団(マジカル・ナイツ)』という、いわゆるネットゲームだ。 (ん?誰かからメールが来てるな…) 【今日、いつもの所で待ってる リサ】 (リサか、そういや最近パーティー組んでなかったっけ) 『魔法騎士団』は基本的にオーソドックスなRPGで、一人でプレイしてもそれなりに面白いと思う。 けれど、ネットゲームの最大の魅力は他のプレイヤーとパーティーを組んで協力して進んでいくことにあるだろう。 今では世界中のプレイヤーが参加するネットゲームのソフトも多数あるけど、このゲームは今の所日本でだけしかプレイでき ない。 それでも、ユーザーが100万人を超えたとこのゲームのサポートページに書いてあった。 「んじゃ、今日も行きますか」 そして僕は『魔法騎士団』を起動させた。 モニターに僕の分身であるキャラが表示される。 (では、リサの所に行きますか) このゲームでは、あらかじめ登録してあるキャラクターの居場所が右上に記されるようになっている。 リサはやはりいつもの所“紅の大地”で待機しているようだ。 僕のキャラクター、コウをターミナルからワープゾーンで紅の大地に移動させ、リサの所へと向かう。 ちなみに、紅の大地のフィールドは広大で、そこに居るキャラも膨大なので待ち合わせの時は大体目印を決めている。 リサと会うときは、いつもこの噴水の前と決めていた。 (リサは……いるいる) コウ:ごめん、待った? リサ:何、そのデートに遅れてきた男の第一声みたいな台詞(笑) コウ:いや、たまにはこういうのもいいかと リサ:あんまりよくないかも コウ:にしても珍しいな。リサから連絡くれるなんて リサ:うん……ちょっとね。それより早くパーティー組みましょう コウ:OK その後ちょっと待っていると、顔なじみのハイドとルカがパーティーに加わり、旅に出発することになった。 僕たちのレベルはみんな同じくらいなので、他愛もない話をしながら雑魚敵を倒しつつクエストを攻略していった。 ただ、ちょっと気になったのが、リサがいつもより元気ないような感じがすることだった。 そして…… (おや?) リサが僕にツーショットで話かけてきた。 ツーショットというのは、普通のチャットとは違い、ツーショットで話している本人同士意外には会話の内容が表示されない チャットのことである。 よっぽどのことがない限り使わないと思ってた機能だけど…… 【リサ:質問その1。ゲームのあなたと学校の君、どっちが本当の姿?】 【コウ:は?】 【リサ:お願い。真剣に答えて】 これはどういうことだろう。 確かに以前リサには僕がまだ高校生だって話したことがある。 だから、現実の僕がどんな風なのか知りたい好奇心からこんなことをたずねてきたんだろうか? けれど、リサの言葉からはこれまでにないほどの真剣さが見てとれる。 (どっち、か……) 【コウ:難しい質問だな。でも、答えなきゃリサは納得しないんだろ?】 【リサ:うん】 【コウ:わかった。どっちも本当だ。ここにいる俺も、学校での僕も】 【リサ:ありがと。では質問その2。あなたは名桜高校の2年生ですか?】 「!?」 意外だった。 確かに僕が通っているのは“私立名桜高校”だ。 しかも、名桜なんて変わった名前の高校がそうそうあるわけもないだろうし… (もしかして、僕を知ってる??) 【コウ:……YES。もしかして…】 【リサ:質問その3。これが最後の質問】 僕の言葉をかき消すように素早く次の文章が打ち出される。 【リサ:私は誰でしょう?】 一瞬、僕の動きが止まる。 (私は、誰でしょう???) 思考も止まる。 キャラも当然止まっている。 ハイド:どうしたんだ?コウ、リサ ルカ:さっきから全然進んでないんだけど……もしかして寝落ち?(笑) コウ:ごめん、ちょっと時間をくれ ハイド:なにかあったのか? ルカ:悩んでるんだったらお姉さんに相談してごらんなさい(笑) リサ:みんな、ごめん ルカ:……なるほど、そういうことね ハイド:おい、なにがなるほどなんだ? と、画面上ではこんな風に会話がすすんでいるけど、僕はまだリサの問いに答えてはいない。 リサが僕にそう聞くということは、当然僕がリサを知っているということになる。 そして、リサも僕を知ってるということに……ん?リサ?どっかで聞いたような…… そういやリサのクラスはナイトだったな〜、なんて関係ないことまで考えたり……ナイト…リサ、ナイトリサ……まさか!!! 【コウ:内藤理沙?!】 【リサ:ご名答〜〜〜佐川洸君】 マジですか? リサが内藤だったとは……今まで、ちゅうても知り合って2ヶ月くらいだけど、気づかなかった僕って間抜け? 【リサ:じゃ、そういうことで】 【コウ:あ、おい!】 リサ:さ、もういいわよ ハイド:むぅ、なんかわからんが、とにかく行くぞ! ルカ:そうそう。ハイドはその無理無理な強引さがなくちゃ コウ:いや、できれば一人で突っ込むのはやめてほしいんだが… と、いつものようにクエストを再開はしたものの、僕は動揺しっぱなしで、何回か死にかけた。っていうか死んだ。 ルカが予め蘇生魔法を唱えていたおかげでゲーム中断とまではいかなかったものの、かなり足を引っ張ってしまった。 そして、無事……ではなかったけどクエストを終えてパーティーは解散。 僕もゲームを終了した。 「ふぅ…」 はっきりいって混乱している。 リサが内藤…… 考えもしなかった事実がそこにあった。 「……考えても仕方ない、寝よう」 僕はベッドに潜りこんだ。 時刻は深夜2時を回っていた。 夜の魔法
<続く、と思う(爆)>