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追憶の蜃気楼
確かに僕には見えた。
フェンス越しにたたずむ少女の微笑みが。
僕はその少女に見覚えなどなかったけれど、どこか懐かしいような哀しいような、そんな切ない痛みが胸を突いた。
少女は、僕が夕日の眩しさを嫌って目をそらした間に消えていた。
あれ以来、少女は姿を現さない。
けど、あれは目の錯覚という言葉を強く拒むほどのリアリティを持っていた。
今でも、あの少女の微笑みが瞼に浮かぶ。
僕は、彼女を探さなければいけない。
何故か、そんな気がした。
僕はまだ、あの少女に会うことができない。
何の手がかりもなく、ただ闇雲に探し回っているだけなのだから、当たり前といえば当たり前だ。
けど、僕には妙な確信があった。
あの少女に再び会えるという。
そして再び、僕らは出会った。
あの時と同じ、夕日の映えるグラウンドのフェンス越しに。
ただ、違っていたのはその少女が微笑んでいなかったことだ。
僕は彼女に近づこうと一歩前に出る。今度は、目をそらさない。
彼女は、ただ、たたずんでいるだけだ。動くような気配もない。なのに───
彼女に、近づけない。
僕は彼女から視線をそらさず、一歩づつ前へ進んでいる。彼女は、微動だにしていない。それでも距離が近づかないのは
どうしてだ?
僕は、とうとうフェンスに手が届く位置までやってきた。
本来ならこのすぐ向こうに彼女がいるはずなんだ。
しかし、実際には、彼女は僕と一定の距離を保ったままだった。
別に僕から逃げているようなわけではない。
僕は、フェンスを激しく揺らした。
何回も、何回も。
息をきらして再び前を見ると、そこにはもう、彼女の姿はなかった。
それから先、彼女は僕の前に現れることはなかった。
そして、今になってようやく気づいた。
あれは、僕だったんだと。
そう、あれは僕の影、僕の幻。
手を伸ばしても決して触れない蜃気楼。
年を経るにつれ少しづつ失くしていった、夢のかけらの結晶。
それが具現化したのが、あの少女だったのだろう。
彼女は、僕に告げにきたのだ。
夢の時間が終わったことを。
<終幕>