「冬の空って薄いよね」 彼は突然そんなことを言い出した。 「何、いきなりどうしたの?」 私は微笑んで、彼の横顔を見つめた。 「うん。冬ってさ、あんまり外に出たくなくなるでしょ?でもさ、たまにこうやって外に出てみると、色んなことに気づく もんだね」 「そうね」 私たちは今、公園のベンチで空を見上げている。 晴れた日曜日。 彼と過ごす他愛ない一時がたまらなく心地いい。 「やっぱり、四季って偉大だね」 何気なく突拍子もないことを言い出す彼が、どうしようもないくらい好きだ。 「どうして?」 「考えてもみてよ。僕たちは毎日同じ大地の上で生活してるんだよ。だけど、毎日は変化に富んでいる。毎日同じだって嘆 いてる人もいるけど、僕はちっともそう思わない。晴れの日、雨の日、曇りの日、雪の日、暑い日、寒い日、風が強い日、星 がきいれな日・・・日常は生きてるんだ」 こういう話をするとき、決まって彼の顔は輝いている。 「そして、それを端的に表してるのが、四季だと思うんだ。春、夏、秋、冬。どれも素敵な季節じゃないか」 「そうよね」 「四季はこの星の息吹なんだ」 私は、この星に四季のない場所もあることを知っていたけど、そんなことはどうでもよかった。 彼は毎週日曜日、この公園のこのベンチに座っている。 私は毎週日曜日、この公園のあの道を散歩している。 初めて存在に気づいたのは、多分、私。 初めて声をかけたのも、多分、私。 私は今、恋をしている。 私の隣でぼんやりと空を眺める彼に。 それでもまだ、私は彼の名前を知らない。 日曜日
<終幕>