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Sister Soul
佐伯純也は月代高校に通う、ごく普通の高校二年生である。
ある秋の日、純也は同じクラスの不良・浅間伸彦に絡まれている少女を助け出した。
助け出したのはいいのだが、少女は純也のことを『お兄様』だと言う。
少女の名は北園水穂。
これは後からわかる事だが、水穂は世界有数の企業である北園グループの会長の娘だ。
そうとは知らない純也は、もう会うこともないだろうと社交辞令の挨拶を交わしてその場を後にする。
しかし、水穂は再び純也と対面とする。
同じ月代高校の『先輩』として─────
そう、水穂の外見は明らかに純也よりも年下だが、実際には年上だったのである。
そんな水穂と純也が織り成す騒動に、水穂の二人の妹も関わってくる。
純也の実家の合気道の道場の門下生である、次女・保奈美。
水穂の時とほぼ同じ経緯で知り合った、三女・未帆菜。
それぞれが純也に好意を寄せているのは明らかだが、純也にはそれを素直に受け入れることができない理由があった。
九条綾音。
純也の幼馴染で恋人、そして婚約者。
純也の心に居るのはその人、ただ一人。
ということを水穂に説明して離れてもらおうとしたが、見事に説得に失敗。
以前と変わらぬ態度で純也に接する水穂。
そんな中、九条綾音が月代高校へと転入してきたのであった。
「ん?どうしたんだ亮太?」
昼休み、何気なく教室を見回すと佐々木亮太が明後日の方角に向かって何か呟いているのが見えた。
「UFOでも呼んでたの?」
あけすけにアヤが聞く。
「いや、ちょっと今までのおさらいをな」
「?」
「?」
ますますわけがわからない。
「狂言回しは辛いのよ」
相変わらずの謎の言葉と、やや疲れた表情を残して亮太は教室から出て行った。
「なんだったのかしら?」
「さあな。まあ、亮太は昔から俺たち二人を見てきてるから見飽きてるんじゃないか?」
「そうかもね」
ちなみに、昼休みになったというのに教室から出て行ったのは亮太一人である。
他の皆は何をしてるかというと、俺たち、というかアヤを見ている。
まあ、あからさまに凝視しているわけではいないが、ちらりちらりと見る視線を確かに感じる。
「そして、アヤ。近すぎ」
今の今まで俺の膝の上に乗っていたアヤをすとん、と下に降ろす。
二人きりの時なら別に構わないが、こうも死線を浴び続けるとどうにも落ち着かない。
「もぅ。まぁいいけど」
そう言ってアヤは大人しく俺の対面に座った。
ちなみに、死線は教室の外からも発せられている。
やはり、うちのクラスに“九条綾音”が転入してきたという噂は、瞬く間に全校に響き渡ったらしい。
中には教師らしき姿も見え隠れするのがなんとも言えないが。
と、そんな風に教室の外に思いを巡らせていると。
「おに〜さま〜」
いい加減に聞き慣れてしまった声が聞こえてきた。
ザワ……ザワ……ザワ……ザワ……
教室に、静かだが確かなざわめきが起こる。
まあ、うちのクラスの大半は俺と水穂が付き合ってると思ってただろうから当たり前といえば当たり前の反応だが。
「嫌な気配がするわね」
アヤはアヤで女の勘というか多分野生の勘に近いと思うが、何かに気づいている。
そしてやってくる、水穂。
「お兄様、一緒にお弁当食べましょ」
水穂はいつも通り俺を誘ってくる。
そう、それはつい最近、というか昨日まで頻繁に繰り返されてきたのでもうすっかり何の違和感もなくなっていたのだが。
それを今、初めて目の当たりにするアヤは当然、困惑する。
「ねえ、ジュン。いつのまに子供産んだの?」
「産めるか!」
そんな夫婦漫才をものともせず、水穂はいたって普通に聞いてきた。
「あら、こちらが先日お兄様が言っていらしたお姉様ですわね」
「オ・ネ・エ・サ・マ?」
「そうですわ。お兄様の未来の伴侶ならば、当然私の未来のお姉様ということになりますから」
「どういうこと?」
俺を見つめるアヤ。
はてさて、どこから説明すればいいことやら。
「そんなことよりお兄様、お姉様。はやくご飯を食べないと昼休みが終わってしまいますわ」
相変わらずのマイペースを貫く水穂。
「そうね、気になることは多々あるけども今はご飯よね」
そしてそれに何故か同調するアヤ。
まあ、アヤの場合は嫌った相手には問答無用で反発するので、それがないということは今のところは大丈夫だろう。
「じゃあ、詳しいことは放課後話すとして、今は飯を食いますか」
そして、三人そろっていただきます。
不思議と、何の違和感も感じなかった。
「つまり、水穂は先輩で妹でしかも財閥令嬢で武道の達人で悪の秘密結社から地球を守る人造美少女だと。そういうことね?」
「いや、最後のは確実に違うけどな」
「お姉様っ、それは人に知られてはいけないのですわ」
放課後。
俺、水穂、アヤの三人は屋上に集まり、今までの経緯を話していた。
さすがに最初は混乱していたアヤだが、何度も入念に説明したおかげで、どうやら現在の状況が把握できたようだ。
まあ、途中で水穂が偽情報を織り交ぜたために、まだ多少の混乱は残っているが。
というか、その偽情報が本当に偽物かどうか確かめたわけではないので、なんともいえないのだが。
「OKOK。水穂、って呼び捨ては年長者に対して失礼ですね」
「私は構いませんけど」
「私が構うんです。ですから、これからは水穂さんって呼ばせていただきます」
アヤは昔から年長者を敬っている。
それがたとえ年一つの差だとしてもだ。
その辺の詳しい理由は俺も知らない。
「う〜ん、お兄様は水穂って呼んでくださらないし、お姉様は敬語を使われるし。一体、私はどうすれば」
「いや、どうもしなくていいだろ」
「むぅー、お兄様の意地悪」
「…………なんか、悔しいな」
「え?」
アヤの突然の呟きに、ふと思考が止まる。
「でも、まあ、うん、そうね、負けるわけには、いかない」
さらに謎の言葉を続けるアヤ。
「私も、負けません」
意外にも、その言葉に水穂が反応した。
そして水穂は、俺が今までに見たことのない瞳の色を湛えて、アヤを見据えていた。
事態は、俺を置き去りにして転がりだそうとしていた。
─fin─
