夜空に舞い散るその雪を、染める吐息のその色を

 窓の外を見上げると、ぼんやりとした月が浮かんでいるのが見える。  満月とはいえず、かといって半分よりは膨らんでいる。  ああいう月のことを、何と呼ぶのだろうか。  そんな、どうでもいいことを考えていた。  視線を戻すと、そこには真っ白なノート。  「はぁ……」  思わずため息が漏れる。  今日は、なんだか気分が乗らない。  センター試験まであとわずか。  ここが踏ん張り時だということはわかっている。  実際、昨日も一昨日も、それよりずっと前から頑張っている。  僕には夢がある。  教師になる、というありふれた夢だけど、僕には大事な夢だ。  その最初のステップとなるのが、センター試験。  そのための勉強を、僕は嫌だと思ったことはない。  けれど、今日だけは。  今日だけは、なぜか、参考書の英単語も古文の解釈も、どれも遠い世界の現に思えた。  「よし」  僕は気分を変えて、外へ出ることにした。  行く当ては別にない。  近所のコンビニで肉まんを買うもよし、もっと近くの自販機で缶コーヒーだけ買うのも悪くない。  時間はまだそんなに遅くないので、遠出をすれば開いてる店も結構あるはずだけど。  自転車に乗る気分ではなかった。  それは、扉を開けた瞬間に飛び込んできた、白いカケラのせい。  「雪、だ」  さらさらと、さらさらと。  無数に舞う雪が夜空を染めていた。  記憶を探る。  ここ数年、この町に雪が降った覚えはない。  それに、こんな風に雪に直接触れるのは、もっとずっと昔、そう、まだたくさんの夢を夢見ていた頃かもしれない。  僕はその中から一つの夢を掬い取った。  そう、この雪のヒトカケラを掴むように。  夜空を見上げる。  月は、いつの間にか消えていた。  思い出したように息を吐く。  白く染まる。  何もない空間が、自分の色に染まってゆく。  その中を、僕はゆっくりと歩いてゆく。  自分の信じる、未来へ向かって。
─fin─