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Sister Panic
北園水穂がこの学校に転校してきてはや二週間が経とうとしている。
接し方にはだいぶ慣れてきたが、いい加減「お兄様」と呼ぶのはやめてほしいもんだ。
せめて「お兄ちゃん」なら………って違うだろ、俺!
そんな思考までも水穂に毒されはじめた放課後の教室に、もはやお約束と化した声が聞こえてきた。
「お兄様!いっしょに帰りましょう」
最初のうちはそんな水穂の行動に驚きを隠せないでいたクラスメイトたちも今ではすっかり慣れてしまい、水穂と軽く
談笑してたりなんかする。
ほぼ公認兄妹(?)というわけだ。
実際には妹のほうが年上という奇妙奇天烈この上ない関係なのだが。
「先輩も飽きないね」
帰り支度を終えた俺がため息まじりにそう呟くと、
「ええ、お兄様が私を“水穂”と呼んでくださるまで頑張りますわ」
という論点がずれる以前に逆側にあるような返答が返ってきた。
まあ、こんな会話もいつものことなので気にせずに席を立って歩き始める。
そしてさも当然のように俺の隣りにぴったりとくっついて歩く水穂。
「それでお兄様。この後にご予定などはありますか?」
「いや、別に」
放課後に帰宅部がやることといえば、帰宅部の名の通り真っ直ぐ家に帰るか帰宅部の名に反して繁華街で遊びまわるか
のどちらかだ。
まあ、この学校の近くに俺たちくらいの年代の奴が遊べる娯楽施設は数えるほどしかないのだが。
「では、少し買い物に付き合ってもらえないでしょうか?」
「ん?ああ、別に構わないぞ。で、何を買うんだ?」
「それは……」
言いかけた水穂の足がピタリと止まる。
「ん、先輩、どうした?」
数歩先に進んだ所でそれに気付いた俺はくるりと後ろを振り返った。
と、
「伏せて、お兄様!!」
水穂が叫ぶと同時に俺の方に向かって跳躍してきた。
「うお?!」
俺は咄嗟に床に伏せたので水穂と激突することはなかったが、俺の頭上でなんだか空気と空気がぶつかるような音が聞こ
えた。
続いて聞こえてきたのは女の子の声。
「お姉ちゃん!昨日私のプリン食べたでしょ!!楽しみにとっておいたのに〜〜っ!!!」
「あれは不可抗力よ!」
何をどうすればプリンを食べたことが不可抗力になるのだろうかと考えてみたが、問題はそんなとこではない。
空中での激突をやり過ごし、しばらく水穂とうちの生徒、制服のリボンからすると一年生らしい女の子との闘いを見物する。
二人とも女の子ながらも相当の手錬だ。
「昨日教えてもらった宿題だって間違ってたんだから!!」
「あれは普通気付くでしょ?なんで大化の改新の時に坂本竜馬と水戸黄門が義兄弟の契りを結ばないといけないのよ」
それは気付く。普通。
「お姉ちゃんのバカバカバカ!!!」
というか、ちょっと待て。
「お姉ちゃん?」
確かにあの女の子は水穂のことをそう呼んだ。
それに、あの女の子、見たことある……というか、あれはうちの道場の門下生の北園じゃないのか?
俺とそう変わらない身長でツインテールの女の子なんてそんなに居ないだろう。
俺はそれを確かめるべく、大きく息を吸いこみ、
「構え!」
と大声で叫んだ。
突然の声に、戦闘モードをやめてこっちを向く水穂。
一方もう一人の女の子は、
「押忍!」
と叫んで基本の型を構えている。
やはり間違いないみたいだ。
「北園、お前こんなとこで何やってるんだ?」
そう言って俺が二人のほうに近づくと、
「え、先輩?!どうして先輩がここにいるんですか?いつから居たんですか?もしかして見てたんですか?!!」
と北園は早口で聞いてきた。
「あら、保奈美。お兄様と知り合いなの?」
「お兄様って……え?え?え〜〜〜っ??」
どうやら北園には今の状況がうまく飲みこめていないようだ。
「じゃあ私はお兄様と買い物に行くことになってるから。またね、保奈美」
そう言って俺の手を取り、というか腕組みをしてさっさとその場を立ち去ろうとする水穂。
しかし、何故か水穂が組んでるのとは逆側の俺の腕を掴んで引きとめる北園。
「待って、私も行く。買い物って今日の晩御飯のでしょ?」
「そうよ」
「じゃあ、今日はカレーだからね!」
「はいはい、わかったわよ」
「やった!」
どうやらあっという間に仲直りしたようだ。
それはともかく、何故か二人から腕組みされて否応なく連れ去られた俺に、今まで以上の好奇の視線が集まっていたのは
言うまでもない話だ。
─fin─
