Nyantonaku Sisuter

 突然だけど、僕には二歳年上、現在中学ニ年生の姉ちゃんがいる。  いや、今隣を歩いてるんだけどね。  たまたま一人で下校してたら、偶然会って一緒に帰ることにしたんだ。  「?どうしたの、香澄?」  そう言って姉ちゃんは僕を下から覗きこんでくる。  別に姉ちゃんの背は低いわけじゃない。どっちかというと女の子にしては高いほうだろう。  ただ、僕が大きすぎるから、よく僕の方が年上に見られる。  まあ、登下校の時は僕がランドセルを背負ってるから周囲から「おや?」とかいった目で見られるけど。  「もう、また変なこと考えてるんでしょ」  ちょっと膨れる姉ちゃん。  「そんなことないよ、蓮華」  「そう?ならいいけど」  ……姉ちゃんは僕に「姉ちゃん」とか「姉さん」とか「姉貴」とか呼ばれるのを非常に嫌う。  理由はわからない。  いつ頃からか、姉ちゃんは僕に自分のことを自分の名前の「蓮華」と呼ばせるようになった。  まあ、これといって断る理由もなかったから僕もそう呼んでいるわけで。  「そうそう、また香澄のこと紹介してって友達に頼まれたんだけど……」  「ふうん、そう」  「相変わらず素っ気ないわねえ」  「だって蓮華っていつも僕のこと『私の兄です』って紹介するじゃん。僕は蓮華の弟だよ?」  「だって、皆弟だって言っても信じてくれないんだも〜ん」  そう言って蓮華はぷいと横を向く。  「そりゃあそうだろうけど……嘘はよくないよ」  「まあまあ、そんな堅いこと言わないの。で、今度の日曜なんだけど、いい?」  「今度の日曜……」  とりあえず僕はその日の予定を思い出してみる。  美樹ちゃんとは……特にないか。ま、美樹ちゃんと約束して遊ぶことはほとんどないしね。  由真ちゃんとも……ないな。葉月ちゃんとも約束してないし、祥子ちゃんとも……  「うん、大丈夫みたい」  「なんか、随分長い間考えてたみたいだけど、香澄ってそんなに友達多かったっけ?」  「まあ、それなりに」  でも、1年前くらいから急に友達が増えたのは確かだったり。  しかも何故か女の子が多いんだよな、僕の友達って。  まあ、僕くらいの年齢だと女の子の方が精神年齢が高いというかマセてるっていうから、妙に大人びた僕の感性に女の子 の方がついてきやすいんだろうと自分では分析しているわけで。  「なんか怪しいけど、ま、いいわ」  あ、あと姉ちゃんから紹介された人たちとも結構仲良くなったかな。  でも、あんまり仲良くしてると家に帰ってから姉ちゃんが怖い顔してるから最近は疎遠になってるけど。  それでも、見かけたら挨拶くらいするけどね。  と、そんなことを考えていた僕の目に、一匹の仔猫が映った。  「あ、シェリー」  「シェリー?」  一瞬、姉ちゃんの目が鋭く光った、ような気がした。  「ねえ、シェリーって誰?女の人?ブロンドでナイスバディの美人??」  「え、誰っていうか、ただの仔猫だよ。美樹ちゃんの家の」  「美樹ちゃんの家に猫なんていたかしら」  「うん。最近飼いはじめたらしいよ」  「ふ〜ん、なんだか怪しいわね…」  姉ちゃんは何だか何かを疑っているようだ。  何を疑っているのかはわからないけど。  と、ちょうどとことことシェリーが前方からやってくる。  「よ、シェリー」  僕は何の気なしにシェリーに声をかけた。  「おや、またあんたかい。最近よく会うね」  「まあ、近所だしね」  「それもそうだね。ところで、そっちの嬢ちゃんは兄さんの彼女かい?」  「違うよ。僕の姉ちゃんで蓮華っていうんだ」  「そうかい。じゃ、あたいはちょっと行くとこがあるからもう行くよ。姉弟仲良くね」  「うん。それじゃ」  そう言って僕はシェリーと別れた。  そして何事もなかったようにまた歩き出そうとすると、  「か、香澄……」  と、立ち尽くした姉ちゃんの呟きで足を止めた。  「?どうしたの?」  「い、今、あの猫、喋ってなかった?」  「うん、そうだけど?」  僕はさも当然といった感じ答えた。  「……香澄、なんでそんなに普通なの?猫よ?猫が喋ったのよ?!は、こうしちゃいられないわ!!あの猫を追い かけないと!!!」  「いや、待ってたら美樹ちゃんの家に帰ってくると思うんだけど…」  という僕のことばは既に届かない所にまで姉ちゃんは駆け出していた。  「姉ちゃん、晩飯までには帰ってきたほうがいいよ」
<終幕>