Nyanble Fish

 「お魚くわえたドラクロワ〜 おっぺけぺ〜♪」  僕が今クラスで流行っている替え歌を口づさみながら歩いていると、奇遇にも魚をくわえた猫が遠くから近づいてきた。  その猫はゆっくりと歩いていたので、裸足で駆け出す陽気な主婦に追いかけられているわけじゃないみたいだ。  しかも僕は、その猫のことを知っている。  「やあシェリー。それは今日の晩御飯かい」  てけてけとその猫、シェリーに近づき声をかける。  そこで僕は間違いに気づいた。  シェリーがくわえているのは魚じゃない。  まだ削られていない鰹節だ。小さめの。  「香澄、これのどこが晩御飯だってんだい?」  じと目でシェリーが僕を見る。  「まあ、確かに嫌いじゃないけどさ。腹のたしにはならないよ」  「ごもっとも」  その前に、鰹節ってあの状態のまま食べられるのかな?  まあ、あれを削ったものを食べるんだから食べられないことはないだろうけど、あの姿のままで食べてる人を僕は見たことが ないのであって一概にそうとも決められ…  「お〜い香澄〜、戻っておいで〜」  「あ、僕またどっかいってた?」  「ああ、あの顔は38億年前の地球を旅してるような顔だったね」  いったいどんな顔なんだろう。  自分で見てみたい気もする。  「ところでシェリー、その鰹節どうするの?やっぱ美樹ちゃんちの夕食に使うのかな?」  「ん〜どうだろうね。これはあたしが道端で拾ったやつだからさ」  「シェリー、拾い食いはよくないよ」  「まあ、人間ならね。あたしは猫だからそんなこた気にしないよ」  「あ、そうか」  そういえばシェリーはれっきとした仔猫だった。  いつも普通に会話してるから時々忘れちゃうんだよな〜。  「ま、こいつの使い道は家に帰ってから考えるとするさ。そいじゃ、あたしはそろそろ行くよ」  「あ、うん。車には気をつけるんだよ」  「ああ、わかってるさ」  そう言ってシェリーは静かに去っていった。  そこで僕はふと思った。  「そういえば、さっきシェリーって鰹節くわえたまま喋ってたような……」
<終幕>