魔法使いはまだ見つからない。 出会えば必ずわかる。 その時のために銃も買った。 この近くに居るのは間違いない。 けど、まだ見つからない。 銃を手にしてから、もう一月も経とうとしてるのに。 いきなり、目の前に知らない男の人が立ち塞がる。 ……ちがう、この人も魔法使いじゃない。 「よう嬢ちゃん、なんか物騒なもん持ってるんだって?」 全身を黒で包んだ男の人は無用心に私に近づいてきた。 ああ、今日も必要ないものまで消さなくちゃいけないなんて。 「はぁ、一体なにやってんだろ、私」 キィキィと公園のブランコを揺すりながら呟く沙月。 「いまだ手がかりゼロ、か。“探し屋”の名前が泣くわね」 とはいっても、“探し屋”というのは沙月が自称しているだけで、世間一般の基準からすると沙月の職業は『私立探偵』 ということになる。 どっちにしろまっとうな仕事ではないのだが。 「って、こんなとこで弱気になってちゃ温泉旅行が遠のくばかり。待っててね草津と別府と登別!」 そう言って気合を入れると、沙月は再び歩き出した。 さて、御手洗沙月が探しているのは一人の少女だ。 彼女の恋人、真北鳴が経営する模型店『伽藍堂』の商品を手に入れた少女の捜索を鳴本人に頼まれている。 商品といってもそれは普通の商品ではなく、『伽藍堂』の裏の顔“マジックアイテムショップ”の商品、魔銃「マジシャン・ バスター」なのだ。 沙月は鳴からその魔銃の所有者たる少女を探すように頼まれたが、見つけてからどうしろという具体的な指示は受けてない。 ただ、「助けてやって」と言われただけだ。 沙月にとっても、今回は特殊なケースにあたる。 今まで鳴から人探しを頼まれたことなどなかったのだから。 「それにしても、なんの手がかりもないなんてちょっと異常だわ」 沙月はその職業がら、広い情報ネットワークを持っている。 正規の情報網から闇のルートまで玉石混淆の情報の中から真実を見ぬくのも探偵に必要な能力の一つだ。 だが、その魔銃の持ち主については、噂話程度の情報すら入ってこないのだ。 「『真なる7』の一つがあの店から消えたことはもう皆知ってるだろうから、コレクター達が躍起になって探してると思っ たんだけど……」 実際、最初の頃はそういった動きはあったものの、最近では買われた魔銃よりも盗まれた聖剣の行方の方に情報が集中して いる。 とりあえず現在わかっているのは鳴から聞いた少女の容姿くらいなものだ。 身長は140よりやや高い程度。腰まである黒髪と意思を貫く瞳が印象的。 「そして性格は君と正反対だと思うよ」 そう言って笑った鳴の顔を思い出し、沙月はちょっとムッとした。 「ああ、もう。その女の子空から落ちてこないかしら」 そんな身勝手な言葉を苛立ちとともに吐き出して空を見上げると、信じられないことに今にもビルの屋上から落ちそうな少 女が沙月の目に映った。 「え?うそ?!まさか!!」 咄嗟に、そのビルへと近づく沙月。 しかし、目にした距離と実際の距離にはだいぶ開きがあり、なおかつビルへと続く道を赤信号と車の流れが阻んでいた。 (間に合わない?!) 少しずつ、少しずつビルの端へと近づく少女。 地上30mはあるだろうその場所から墜落しては、生の望みは無い。 そして、少女の足が空に架かる。 (やるしか……!!) 瞬時に判断した沙月は隠し持っていたナイフを地面に突き刺した。 「陽炎!」 地球の引力に抗うすべの無い少女の姿をじっと見据えて、沙月はそう叫ぶ。 すると、沙月の視界が靄がかかったように歪む。 世界が歪曲する。 歪曲の中心は少女の落下地点。 空から降ってきた少女が墜落したのは、固いアスファルトではなく歪んだ空。 少女が空に居る間に、沙月は少女を抱えてナイフを地面から放した。 正常へと回帰する世界。 「ふぅ……ちょっとやりすぎたかな」 今の歪曲も、少女の落下も、人通りは少ないとはいえ通りを歩く人や車が気付かないはずがない。 しかし、誰も二人の様子を気にした様子も無く、日常が溢れている。 (……まさか、結界が張られているの?!) 「ん……」 と、気を失っていた少女が意識を取り戻した。 「大丈夫?」 優しく声をかけた沙月に返ってきたのは、 「……あなたも、魔法使いじゃない」 という、なんとも対応に困る言葉だった。 六月の少女
<続く?>