Sister House

 「ここ……君の家だったのね……」  俺は、目の前にそびえたつ豪邸を見つめ、ただただ立ち尽くしていた。  「そうです。さあ、中へ入りましょう」  まるで自宅へ帰るような気軽さで門をくぐるミオナ。  まあ、ここはミオナの家なのだそうだから当たり前か。  ちなみに睦美は「私には無理だから」と言って去っていった。  一体何が無理なんだ?  それにしても、だ。  この、別に高級住宅街でもなんでもない場所にある、なんというかどこかズレた豪邸は、この町で知らない者は居ないくらい 有名な家だ。  そこが、まさか北園家だったとは。  そういえば、水穂は積極的な割には家に招待とかはしなかったな。  その辺は水穂なりに線を引いていたんだろうか。  「佐伯さん?私についてこないと迷いますよ?」  「迷うってそんな大げさ……」  でもないな、この広さなら。  「ちなみに、正規のルートを外れると、母の仕掛けたトラップが作動するので用心してください。正規のルートでも唐突に襲 ってくる物体とかもありますので気は抜けないのですけど。まあ、佐伯さんならば問題ないでしょう」  「問題ないって……そういうことは早く言ってくれ!」  俺は、どこからか飛んできた洗濯バサミや乾電池を避けつつミオナの後を追った。  北園姉妹の強さの秘密はこれか。  というか、父親は大企業の会長とはいっても武術の心得はないんじゃないか?  こんなんで家に入れるのか?  「ところで、学校行く時もここ通るのか?」  こんな思いしてまで学校に行きたくないぞ、俺は。  「いえ、登校は秘密の地下通路を通りますので。さあ、到着です。私です、ただいま帰りました」  「まあ、玄関は普通だな……少々ハイテクっぽいが」  指紋照合、音声照会の後、ICカード挿入してパスワードをインプット……別にそこまでセキュリティに凝らなくてもいいと は思うが。  そりゃ、大企業の会長の家ではあるわけだが。  「なあ、なんかやりすぎじゃないか?そのドア」  「私もそう思います。ですが、母の趣味なので仕方ありません」  「……変わった趣味だな」  「まあ、元傭兵なので」  う〜ん、なんかさばさばしてるな、ミオナ。  「あ、未帆菜おか……って、お兄様?!なんでここに?!」  俺とミオナが玄関先で駄弁っていると、先に戻っていたらしい水穂がひょっこり顔を出してきた。  「よお、先輩。お邪魔してるぞ」  「私が招待しました」  「未帆菜……ナイス!」  ビシっと親指を付きたてる水穂。  「というわけでお兄様、ようこそ北園家へ!力の限り歓迎いたしますわ」  微妙に嫌な響きの歓迎のされかたのような気がするが……  「お姉ちゃ〜ん、私のCDどこ……って、先輩?!なんで先輩がうちに?!!」  「保奈美姉さん、この佐伯さんは立体映像です」  「な〜んだ、残念」  そう言ってとぼとぼと歩いていく保奈美。  「んなわけあるか!」  と、思わずつっこんでしまう俺。  「わ、喋った!バージョンアップしたんだね〜」  む、なんだか妙な反応が返ってきたぞ。  「いや、俺は俺で俺なんだけど」  自分でも言ってることが意味不明だ。  「なあ、先輩。もしかして、この家にそういう設備って……」  「はい、全て完備してますわ」  そう言って水穂がどこからか取り出したリモコンのスイッチを押すと、ちょうど俺の隣りに俺が現れた。  「あれ?!先輩が二人??分身の術???」  保奈美はすっかり混乱している。  まあ、俺も意味もなくロボットダンスなど披露してしまうほどの動揺ぶりなのだが。  「お兄様、その動きは華麗ではありませんわ」  「少し期待外れです」  ……この二人は一体何を期待していたのだろう。  「まあ、お遊びはこれくらいにしておきましょうか。お兄様、どうぞ奥へとお上がりください」  こうして俺は、水穂に案内されるままに北園家の中へと足を踏み入れた。  言い知れぬ不安を抱えていたのは、まあ、言うまでもないだろう。
─fin─