春の陽光

 目が覚めるといつも、太陽は東側の窓から光を投げ込んでいる。  たまの休みだというのに平日と同じ時間に起きてしまった。それでも、不思議と悪い気はしない。  取り敢えず、ベッドから下り、顔を洗うことにする。水道から流れてくる水にはもう、冬の刺すような冷たさはないが、 朦朧とした意識を明瞭とさせるのには程よかった。  服を着替え、ソファーに腰を落とし、新聞に目を通す。不況を嘆き、政治を非難する記事ばかりが目についた。何故だか、 やりきれない気分になった。  窓を開け放ち、新鮮な空気を入れる。少しだけ胸がスッとしたので、身の回りの整理をすることにした。床に散らばった 雑誌を棚に置き、新聞をひとまとめにし、机の上の雑貨をそれぞれ直す。  片付けを終えたところで時計に目をやると、針はちょうど十時を回ろうとしている。  心地よい陽気に誘われて、海辺の公園で読書をすることにする。適当な本を見繕い、部屋を後にした。細い道を東に少し 歩くと、国道に出る。その国道を挟んだ向こう側に、目的の公園はある。信号が変わるのを待ち、ようやく公園へと足を踏 み入れると、ちょうどよい木陰のベンチを見つけ、そこに腰を下ろしておもむろに本を開く。  持ってきた本は、中国古代の魅力的な人物を描いた時代小説と、新書サイズであるにもかかわらずハードカバーのものよ りもページ数の多いミステリー小説だ。  二時間ほど読書にふけったあと、少し空腹を覚えたので休憩がてら食事をとることにした。  国道を五分ほど南に向かって歩くと、去年オープンしたばかりのコンビニエンスストアがある。そこで食料と飲物を確保 し、再び公園へと戻った。  先ほど座っていたベンチはいつのまにか木陰ではなくなっていたので、気持ち良さそうな芝生に腰を下ろして食事をとる ことにした。  人間、空腹が満たされると必ず睡魔が襲ってくる。睡魔に抵抗する理由もないので、安心して身を委ねる。  心地よいほどに意識が深層へと堕ちていくのがわかる。夢とは現実の裏に潜む自己の欲望が、表層に現れようと脳に働き かけたときに見るものなのだろう。  再び瞳を開いた時、辺りは既に夜の闇に包まれようとしていた。  国道を走る車の量はこれから増える一方だろう。  公園に別れを告げ、夜の闇に溶けるように住処へと戻る。  明日からまた繰り返す、何気ない日常に備えるために。
<終幕>