ソシテ世界ハ灰色ニ染マル

 ボクの目には未来が視える。  それは、明日のことかもしれない、5秒後のことかもしれない、10年後のことかもしれないというほど不確かなものだけど。  視えた事は必ず起こる。  といっても、そんなに大した事は視えないんだけど。  例えば。  自動販売機でお釣りが出てこない事がある、とか。  にわか雨にあってびしょ濡れで家に帰りつく時がある、とか。  教室で告白して断られる、とか。  そんな些細なこと。  ちなみに、教室で告白する未来を視たのは、小学校低学年の頃で、告白したのは中学の卒業式の日。  振られた後に、ああそういえばこんな未来も視たことあったなと思いだしたんだ。  覚えてたなら、他の場所で告白したのに。  そんなボクなんだけど、高校に入学した頃からあまり未来を視なくなった。  まあ、別になくて困るわけじゃないんだけど、ちょっと寂しい感じもする。  そういえば、最後に視た未来はどんなのだったっけ。  そうそう、ちょっと変な感じがする未来だったんだ。  いつも見る未来にはちゃんと色が付いているのに、その未来は灰色で。  背景もどこか歪んでいて、周りからは騒音というより轟音に近い音が溢れていて。  場所も、時間も、自分さえもわからないような未来で。  あれは、いったいなんだったんだろう?  まあ、そんな事より、早く学校に行かないと遅刻しちゃう。  ───そして、少年が家の扉を開いた瞬間     世界は、灰色に包まれた─────  未来とは須らく不確かなもの。  誰もがそう信じているが、この少年が映す未来だけは、既に確定した未来だった。  いや、少年自身すらわからなかっただろうが、少年が見ていたのは未来ではなく、過去だったのだろう。  明らかな矛盾。  だが、この灰色の世界にはその矛盾すら存在しない。  この世界が灰色に染まった理由すらない。  わかっていることは一つ。  灰色の世界は、もはや世界とは呼べないということ。  そこには、何もない。  生命も、音も、この未来を視た少年の姿すらない。  あるのはただ灰色だけ。  灰色だけが全てだった。  「………今のは?」  ゆっくりと瞳を開けた少年は、静かにそう呟いた。  「まさか、ね」  ぶるぶると頭を振って少年はカーテンを開ける。  朝の光が、まぶしく部屋を染める。  どこかほっとした表情で、少年は着替えを手早く済ませると、朝食を食べて学校に向かうことにした。  「行ってきま〜す」  元気良く挨拶をして、家の扉に手を伸ばす。  が、一瞬扉を開くことを躊躇う。  たまたまそれを見ていた母親が怪訝そうな顔で少年を見る。  少年は「なんでもないよ」と言って、扉を開ける。  そして、扉の向こうには───
─END─