Sister Grandprix 〜scene00〜

 「美少女コンテスト?」  アヤが転校してきて一週間が経とうとしていたある日の放課後。  俺とアヤが離れたのを見計らったように、亮太がやってきて、そんな単語を呟いた。  「ああ、半期に一度行われる由緒正しいコンテストだ」  どう考えてもミーハーなコンテストに由緒も何もないと思うが。  「で、それがどうかしたのか?」  俺はそういうイベントにはまるで興味がない。  バレンタインやクリスマスなども言われるまで気づかないくらいだ。  まあ、その事でアヤと喧嘩になったこともあるが、それはまた別の話。  そういう俺の性格を知っているので、亮太がこの手の話を俺に振ってくるのは珍しい。  「いやな、今回はお前も当事者っぽいから一応知らせとこうと思ったんだ」  「当事者?もしや、俺がエントリーされているのか?」  「んなわけあるか。エントリーされてるのは綾音ちゃんと水穂ちゃんの二人」  なるほど、それならば確かに俺は当事者かもしれない。  亮太の説明によると。  元々このコンテストは男子だけの秘密の遊びだったのだが、今年に入ってから女子の間にも広まったこと。  前回に至っては、教師の間にも知れ渡ったが、黙認されているということ。  というか、男性教諭の数人はノリノリだということ。  このコンテストでトップになってもこれといった特典はないということ。  去年まで3年連続不動のトップだった先輩が卒業したため、今年のコンテストは毎回順位が入れ替わっていること。  それには少なからず女子の票が影響してるということ。  投票期間は月曜から木曜までで、金曜に結果が出るということ。  投票方法は、自分が支援する娘の名前を書いたメールを指定されたアドレスへ送信すること。  そのアドレスは毎回変更されていること、などがわかった。  「一つ、基本的な質問があるんだが」  「ん?なんだ?」  「エントリーしてるのはアヤと先輩だけなのか?」  「違う違う。エントリーするのは毎回5人。これは昔からずっとそうみたいだけど」  「その5人はどうやって選んでるんだ?」  「それは俺たち『美少女愛好会』の独断と偏見による」  なぜかちょっと偉そうに亮太が答えた。  「…………っていうかお前、そんな怪しげなところに所属してたのか…………」  「別に怪しくないぞ。ただ純粋に美少女を愛する者が集う場所だからな。メンバーが3人しか居ないので部活とは認められてな いけどさ。毎年やってるランキングなどは密かに好評だぞ」  名前の怪しさほど怪しい活動はしていないようで少し安心する。  それでも健全さの欠片もないと思うが。  「で、アヤと先輩以外の3人は誰を選んだんだ?」  「ああ、まずは前回トップの現生徒会長、3−Dの萩原恵美先輩。この人は正統派アイドル路線が売りだね。次に2−Aの桜崎 縁。古式ゆかしい喋り方が魅力の大和撫子。最後は1−Bの笹沢沙里沙ちゃん。印象的な名前と庇護欲をそそる顔立ちで年上に人 気急上昇中。この3人と綾音ちゃん、水穂ちゃんが今回のエントリーメンバーというわけだ」  「ふむ。まあ生徒会長はさすがに見たことはあるが。後の二人は全く知らないな」  「ま、そりゃそうだろうな」  「で、俺にわざわざこんな話をしたってことは、何か手伝うことでもあるのか?」  「いや、それはないから安心してくれ。ただ、ちょっと気をつけた方がいいかと思ってさ」  「気をつける?」  「ああ。ほら、お前と水穂ちゃんの仲はもう周知の事実だろ?それに綾音とお前との関係も、既に知れ渡ってると思うし。多分 みんなお前がどっちに投票するか知りたがると思うんだ」  「あー、なるほど」  どのみち、俺は投票する気は微塵もないんだが。  そんなこと言っても周りが納得するはずないからな。  「ま、その辺は適当にあしらうとするわ。忠告ありがとな」  「いやいや、こっちもコンテストが必要以上に荒れて欲しくないだけだし。まあ、純也が普通でいれば何も問題ないだろうさ」  そう言って、亮太が帰る体勢に入る。  「ん、もう帰るのか」  「これからコンテストの打ち合わせ。ま、お前も気が向いたら投票してくれ。じゃあな」  「ああ、またな」  手を振り、亮太を見送ったところで俺はふと気づいた。  「そういや、投票の宛先のメアドってどこで公開してるんだ?」
─fin─