冬の月光

          窓の外を賑わしていた吹雪も、ひとまずおさまったようだ。           キーボードを叩く手を休め、大きく伸びをする。           何時間もモニターを眺めていたために、疲労が相当たまっている。少し休息が必要だろう。           気分転換のため、近くのコンビニまで歩くことにする。           たまには、自分の足で大地を踏みしめるのもいいだろう。           部屋を出ると、辺りは白く染まっていた。           ただ、アスファルトだけはかろうじてその無機質な姿をあらわにしていた。           氷を裂く足音が、耳に心地よい。           しばらくその感触を楽しんでいると、目的の場所に到着した。           店内はさすがに暖かい。           手早くホットコーヒーとサンドイッチを買い、その店を後にする。           帰り道、ふと、空を見上げる。           月が眩しい。           一瞬、自分の目を疑った。月があんなに輝くのか、と。           しかし、それは紛れもなく月であった。           その月は、ステージでモノローグを語るキャストを照らす、スポットライトに似ていた。           自らが輝き、そして照らす相手を際立たせる。           月は、自ら輝くことはない。           それは分かっている。分かってはいるが、あの輝きをどうして太陽の反射だと言えるだろうか。           今、月は太陽よりも明らかに激しく輝いている。           太陽を直接見ることは叶わないが、月はそれを成し得るのだ。           闇を照らす月光。           部屋に戻った後も、しばらく月を眺めていた。           月の光が、体も心も癒してくれるような気がしたのだ。           ただの気休めかもしれない。           それでも、気休めは必要だった。           カーテンを閉じれば、もうそこは現実だ。           そう、不条理も非合理も包み込んだ、人生という名の戦場で生きていくためには。
<終幕>