DARK EYE -3rd-

 こんなところで大学時代に培った資料検索のノウハウが役に立つとは思いもしなかった。  ただ、大学を出てから随分と時間が経過しているので、さすがに学生時代のスピードで調べられるはずもない。  私は腰を落ち着けてじっくり探すことにした。  無い。  随分探したがそれらしき記事がみつからない。  何故だ。  私の探し方が下手なのか?  わからない。  閉館時間までねばって探してみたが、結局彼女のことは何一つ知ることが出来なかった。  その夜、私は夢を見た。  その夢は妙に生々しく、目覚めた今もはっきりと思い出せる。夢の内容は思い出したい類のものではないのだが。  夢の中で、私は貧しい漁師だった。  貧しいながらも、妻と二人で暮らす生活は幸せといってよかった。  ある日、その最愛の妻が病に伏せた。  医者に看せたところ、治すには人魚の生き肝が必要だと言われ、私は人魚を捜す旅にでた。  私は人魚を求めて舟を出し続けた。  そしてある時、私は大きな時化にあい、海に投げ出されてしまった。  しかし、私は助かった。いや助けられたのだ。私が求めていた人魚に。  その人魚の娘は私を献身的に介抱してくれた。  私は、何故人魚が人間を助けるのか不思議だった。  なぜなら、人魚は漁師を惑わせ海中へ誘い込む海の魔物と言われていたからだ。  だから私は人魚を殺めることに、なんの戸惑いもなかった。  怪我が回復した私は、外へ出て驚いた。  大破したはずの私の舟が、以前と変わらぬ姿で波に揺られているのである。  さらに驚いたことに、人魚の娘が舟に乗せてほしいという。その娘は、どうやら人間に憧れているようだった。  私は人魚の娘を乗せて、家へと帰ることにした。  しばらく航海を続けていると、遠くに陸地が見えてきた。  そこで私はある決断をした。  そう、この旅の目的であった人魚の生き肝を頂くことにしたのだ。  私は後ろ手に大きなナタを隠し、人魚の娘に近づいた。  その娘は徐々に近づく陸地に目を奪われ、私のことには気づいていないようだった。  人魚は不老不死だという。  人魚を仕止めるためには、首と胴体を完全に切り離さなければならないという。  この時、私の心を支配していたのは、このように不完全な人魚の情報だけであった。  そして私は、人魚の娘の真後ろに立った。  人魚の首。ただ、その一点だけを見つめていた。  ナタ振り上げ、思い切って振り下ろそうとしたその時、人魚の娘が振り返った。  一瞬、驚いた表情を見せたその娘は、それでも微笑みを返してきたのだ。  自分を殺そうとしている私に向かって。  その瞬間、私の中の何かが壊れた。  私の意志とは関係無く、私の腕はナタを振り下ろしていた。  人魚の娘は微笑んだまま避けようともしない。  私は必死で何かを叫んでいた。そして、多分泣いていただろう。  私の振り下ろしたナタが人魚の娘の首に触れようとした瞬間───  私は、そこで目を覚ました。  目覚めた私はしばらく自分の両の手のひらを見つめていた。
<続?>