Short Circuit

 ふと立ち寄った中古ゲーム屋で、僕はそれを見つけた。  「『Short Circuit』………?」  パッケージには近未来のSF小説に登場しそうな衣装を身に着けた女の子が二人、自分の身長ほどある銃を構えている絵が載って いるだけで、タイトル以外は何も書いてない。  裏を見てもゲームの説明文も何もなかった。  この際、背表紙のタイトルが『Short Cirkit』なのは些細な問題だ。  「580円か……」  明らかに投売りの値段だったけど、僕は迷うことなく買った。  そして帰ってきてからはたと気づく。  「どのハードでやればいいんだ?」  一応、僕はメジャーどころからマイナーどころまでの家庭用ゲーム機を持っている。  しかし、それを片っ端から調べるのは少々骨なので、とりあえずPCに放り込んでみることにした。  「絵柄もそれっぽいしね」  すると、どうやら正解らしくインストール画面が出てきた。  とりあえず“美少女ゲーム”フォルダにインストールすることにする。  と、なぜかエラー音とともに『これは美少女ゲームではありません。ただちに別フォルダを作成してください』という警告文が 表示された。  「なんじゃこりゃ?」  こんな警告文見るのは初めてだ。  仕方がないので普通の“ゲーム”フォルダに入れると、インストールが開始された。  「わけわかんないな…」  一抹の不安を感じながらも、インストールが終わるのを待つ。  までもなく、ゲームの起動画面が出てきた。  どうやらかなり容量の少ないゲームのようだ。  とりあえず、始めてみることにする。  「まずは名前入力か……デフォルト名はないのか?」  普通こういうゲームは最初標準となる名前が設定されているのだが。  このゲームは最初から空欄だった。  マニュアルに載っている場合もあるが、そもそもこのゲームにはマニュアルが存在しない。  「しょうがないなぁ。志瑞、流と」  僕は仕方なくネット上での自分の名前、いわゆるハンドルネームで始めることにする。  「それでは、レッツビギンでございます」  謎の言葉を呟きつつ、僕はゲーム開始のボタンをクリックした。  「ごきげんよ〜。電波の海へようこそ。ナビゲーターのダルメシアン琴子です」  「二月(ふたつき)香織よ」  最初に画面に現れたのは、パッケージに載っていた二人の女の子だった。  というか二人とも名前が変だ。  「変な名前言うな!」  「言ってないし」  「じゃあ思うな!」  琴子から突っ込まれた。  「まあまあ琴子さん。ところであなたは誰かしら?」  「いや、さっき名前入力したじゃん」  「あらあらそうでしたね。……しこころおうやまじさん?」  「しみずです、志瑞。つーかその分解読みは無理すぎます」  「しょうがないのよ、このゲームマスターアップ前にろくにデバッグやってないせいでバグだらけだから」  そんなゲーム売っていいのか?  「いや、発売前に会社潰れて世間には出回ってないはずなんだけどねー。どうしてあなたが持ってるのかしら」  「中古屋で買ったんだけど」  「その中古屋怪しいわね。今度から買うのやめなさい」  そんなこと言われても、この近辺にはあそこしか中古屋は存在しないので難しい話だ。  それよりも、何の違和感もなくゲームと会話してる時点で何かおかしい気がするが。  地の文の口調も地味に違ってきてるしな。  「細かいことは気にするな!」  「するなー!」  ということだ。  「で、話を元に戻すと、これは一体どういうゲームなんですか?」  「うーん、実を言うと私たちも詳しくは知らないんです」  なんじゃそりゃ。  「とりあえずオムニバス形式のノベルADVなんじゃない?」  非常に投げやりである。  「まあノベルADVは好きだからいいんだけど。その銃って全然関係ないの?」  「ない」  「ありません」  即答された。  「撃てるけどね」  そう言って銃口をこちらに向ける琴子。  きらりと光る銃口。  「ちぇえり〜〜〜ぱ〜〜〜んち!!」  「いや、パンチじゃないでしょ!つーか何か飛んで来たし!!」  「てへっ」  「可愛く笑ってもダメ。もういいや、このゲームやめる………あれ、終了コマンドがない?エスケープキーでもALT+F4でも無反 応だって?!」  「ああ、このゲームセーブポイントに行くまでやめられないから」  「仕様です、お察しください」  「ジーザス………」  「まあ、そんなに長い話じゃないし、とりあえずやってってよ」  「内容は保障しかねますけど」  ナビゲーターがそんなこと言っていいのかよ。  「でも、しょうがないか。放置するのも癪だしね」  こうして、僕は謎で奇妙で変で256本くらいネジのゆるんだゲームに付き合うことにした。
<続く?>