……泣いているのは誰?
 とても悲しそう。
 ……側に居て欲しいの?
 でも、それは駄目。
 私には、待ってる人が居るのだから……



Chapter T-a  ━目覚める姫君━

 「………あれ?」  ゆっくりと目を覚ましたあかりは、さっきまで側に居た少年の姿を探した。  「そっか、夢か。でも、妙にリアルな夢だったよ浩之ちゃ……」  そう言って隣りを向いても、そこには誰も居ない。  「え?嘘?」  くるくると辺りを見回すと、ここが全く知らない場所だということだけが理解できた。  そして、ここがどこかの部屋の中だということも。  (どういうこと?私、浩之ちゃんと一緒に帰ってたはず……あ、そうだ!途中、来栖川先輩の実験に付き合ってそしたら……)  コンコン。  あかりの思考を中断させるように、ノックの音が響く。  「あ、はい」  思わず反射的に返事をするあかり。  「失礼します」  (あれ?この声どこかで……)  そして、部屋に入ってきた女性を見るなり、  「志保!」  と嬉しそうに叫んだ。  しかし、呼ばれた当人は困った顔で、  「あの、私の名前はシホではなく、シオ。シオ=ナガオカといいます」  「え、あ、すいません」  あかりは恥ずかしさと気まずさで顔が赤くなった。  良く見ると、シオは志保よりも少し背が高くて胸も大きい。  それに、年齢もあかりより4〜5歳は上のような感じがする。  それでも、あかりの親友である長岡志保そっくりであることに間違いはないのだが。  「それにしても、本当に良く似てるわね〜」  「え?」  一瞬、自分の考えることが見透かされたのかと思いドキっとするあかり。  「あ、ごめんなさい。初対面でちょっと慣れ慣れしかったかしら?」  「いえ、そんなことないです」  「そう?じゃあ、こっからは普段通り喋っちゃおうっと。いや〜私って堅苦しいの苦手でさ。いっつも国王には怒られてる んだけどね〜」  そう言ってあははと笑うシオ。  そして、こういう喋り方だと本当に志保そっくりだと思うあかり。  「で、似てるっていうのは?」  「ああ、そうそう。あなた、実はこの国の王妃様にそっくりなのよ。そりゃもううりふたつって感じで」  「王妃様……ですか?」  「あ、そういえばあなたの名前まだ聞いてなかったわね」  「あ、はい。私は神岸あかりです」  「ぷっ…はははははははっ」  そう名乗った瞬間、シオは腹を抱えて笑い出した。  「え、あの、その……」  そんなシオにどう対処していいのかわからずにオロオロするあかり。  「ああ、ごめんごめん。それにしてもカミギシアカリねえ。名前までそっくりなんて、こりゃ本当にアヤリの隠し子か?!」  「え?」  「な〜んて、そんなことないか」  ひとしきり笑い終えた後、シオはあかりの隣りに腰をおろした。  「あんたそっくりのこの国の王妃様、アヤリ=カミギシっていうのよ。正確には王妃様だった、んだけどね」  「だった?」  「そう、もう居ないのよアヤリは。一年前、原因不明の病気で倒れちゃってね。ようやくそれが“呪い”の一種だとわかった のはいいんだけど、解呪の儀式の最中にどこかに消えてしまったのよ」  「消えた……」  「それ以来、国王のヒロアキったら荒れちゃってねえ。周辺諸国になんか“狂王ヒロアキ”なんて不名誉な二つ名で呼ばれて るんだから!」  「はぁ……」  「っと、あなたにこんな愚痴こぼしてもしょうがないわね。あなたはアヤリじゃないんだし。でも、なんでかしらねえ?どう もあなたと居るとアヤリと一緒に居るような気持ちになるのよ」  それは、あかりも感じていた。  シオの話を聞いている時は、志保の話を聞いているような感覚だったのだ。  「あ、そうそう。ここに来た目的忘れるところだったわ。着替えたらすぐに謁見の間に来るようにだって。着替えは向こうの クローゼットから好きなのを選んでいいわ。あと、シャワーーなんかはそのドアの奥だから。準備が出来たらその壁にある鐘を 鳴らして誰か呼んでね」  「はい、わかりました」  「それじゃ、また会いましょう」  軽い投げキッスを残してシオは部屋を去っていった。  (これから、どうなるんだろう。浩之ちゃん……)  部屋に一人残されたあかりは、不安に揺らぐ波の中で、しばらく身動きが取れずにいた。